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不妊治療の最前線。ミトコンドリアから受精に成功する日も近い

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Kindai Picks編集部

2016.06.15

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オリジナル記事
医療
コラム

出産年齢の高齢化などに伴い、不妊に悩む女性が増えているという。一方で、不妊治療の研究はかなり進んでおり、再生医療を活用することで「皮膚の細胞から子供を作れる時代」が到来する可能性も。体外受精のさらに先を行く「最新の不妊治療」とは、果たしてどのようなものなのだろうか。

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【監修】
森本義晴(もりもとよしはる)

日本IVF学会理事長、近畿大学先端技術総合研究所客員教授、日本生殖医学会生殖医療専門医ほか

1951年生まれ。関西医科大学卒業、同大学院医学研究科修了。関西医科大学附属病院や医療法人三世会森本病院で勤務した後、1987年河内総合病院不妊センター設立、1998年IVF大阪クリニック設立、2003年IVFなんばクリニック設立。2004年にはIVF JAPANを登録し、CEOに就任。2014年には最先端技術が集結した体外受精専門機関、HORACグランフロント大阪クリニックを設立。現在も、世界最大の不妊治療専門機関である同グループを率いている。専門は生殖超微形態学。


不妊の救世主「ミトコンドリア」

「近年、出産を考えている女性の卵子の質が低下しています。その理由は、ストレスやPM2.5といった環境的な要因が増えていることと、そして仕事の影響で子作りをする年齢が上がっているからです」

そう語るのは、世界最大の不妊治療専門機関である「IVF JAPAN」を率いる森本義晴(もりもとよしはる)日本IVF学会理事長。

卵子の質を改善するためにIVF JAPANが注目したのは、ミトコンドリアという細胞内の組織。ヒトの体は40兆個もの細胞でできているため、卵子の中にあるミトコンドリアが頑張ってエネルギーを作り出してくれないと赤ちゃんはできない。

そして考え出された治療方法は2つ。1つは、鍼治療や食事療法によってミトコンドリアが嫌う活性酸素を抑えること、そしてもう1つはミトコンドリアを新たに追加することだ。


卵子の元になる幹細胞から、ミトコンドリアを採取する。

新たにミトコンドリアを追加する「ミトコンドリア移植」を行うためには、どこかからミトコンドリアを採取してこなければならない。しかし森本によると、『肝臓や筋肉の細胞からミトコンドリアを採取するのは、非常に難易度が高い。また、若い女性の卵子から良質なミトコンドリアを採取することもできるが、他人の卵子を犠牲にするため倫理的な問題がある』とのことだ。

そんな中、ハーバード大学の教授によって、卵子の元になる幹細胞(生殖幹細胞)が発見された。幹細胞というのは、いくらでも増殖することができ、かつ別の種類の細胞に分化する(変化する)こともできる細胞のこと。その中にあるミトコンドリアは、非常に元気で、異常が少ない。さらに自分の細胞のミトコンドリアのため、倫理的な問題もない。

卵子と一緒に採取した6mm×6mm×1mmの3個の卵巣組織から卵子の幹細胞を見つけ、その幹細胞の中からミトコンドリアを取り出す。そうして得られたミトコンドリアを、精子と一緒にピペットで卵子の中に注入する。IVF JAPANでは、この方法によって既に20名の不妊治療を行っており、現在は、卵巣組織から卵子の幹細胞を取り出すところまで進んでいるという。不妊で悩む女性にとって非常に夢のある治療方法は、少しずつだが確実に実現されようとしている。


卵子も精子も不要!?皮膚の粘膜から子供を作れる時代がくる。

ミトコンドリアを使った卵子の質の向上も期待できるが、10年後には再生医療を活用した不妊治療が盛んに行われるようになっているだろう。その時に使われるのはもちろん、ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞だ。これらの細胞は、体のどの部分の細胞にも分化できる能力を持っている。

「皮膚の粘膜の細胞からES細胞やiPS細胞を作り、それを卵子や精子に分化させ、卵子の中に精子を注入する。その後は人工子宮を使って育てることもできます」

これが森本が考える10年後の不妊治療。既にマウスでは、ES細胞やiPS細胞から卵子と精子を作り、それらを授精させて子供を産ませる実験に成功している。今後はサルなどの大きい動物で実験が行われるようになり、やがてヒトにも適用されていくだろう。

体外受精ができるようになったことで不妊治療は大きく前進し、これまでに多くの人たちが救われてきた。そして今、次の不妊治療のイノベーションが起きようとしている。


体外受精で異常は増える?何歳まで子供を産める?



最後に、不妊治療について疑問に思うことを2点、森本に聞いた。

まずは、体外受精で子供を作ると、赤ちゃんに異常が発生しやすくなるのか。これについては、昔はサンプル数が少ない調査で「体外受精の方が異常が多い」という結果が出ていた報告があったものの、現在は世界で600万人もの赤ちゃんが体外受精で生まれていて、改めてたくさんのサンプル数で調査したところ「体外受精だからといって特に異常が増えるということはない」という結論になっているとのことだ。

ただし、「遺伝的な異常は増えないということはわかりましたが、遺伝子とは関係のないところでの性質の違い(エピジェネティクス)はあるのではないか、ということが現在議論されています。実際、体外受精でできた子供の方が体重が少し重いという結果が出ており、現在精査しているところです」とのこと。今後の詳細な調査結果が待たれる。

そして不妊治療に関するもう1つの疑問は、女性は何歳まで子供を産むことができるのか。この点については、「卵子や受精卵、あるいは卵巣組織は、凍結しておくことができます。凍結技術は、日本が非常に得意としている分野なんです。そして子宮はあまり年を取りません。70歳くらいのお母さんの子宮を娘さんに移植して使うこともあるくらいです。つまり、現在の技術でも70歳の女性が妊娠することは可能ということになりますね。ただし、お腹の中で赤ちゃんを育てて出産するのは非常にリスクが高いため、それが現実的かというのはまた別の話になりますが…」とのことだ。


少子化社会で女性の高齢出産も増える中、新しい不妊治療への期待はますます高まっていくと予想される。人間の作る社会構造が生み出した問題は、同じく人間が発展させてきた科学技術で解決できるのかもしれない。

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