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2016.04.07

“宇宙の均衡と調和を表現する”料理人 HAJIME・米田肇

Kindai Picks編集部

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新奇な美意識による創造性と緻密に計算された高いテクニック。それらを駆使した料理で、日本のみならず、世界のガストロノミーを牽引し続けるトップシェフ・米田肇さん。料理の分野を超え、次の時代を切り拓く術を聞いた。

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【プロフィール】
米田 肇(よねだ はじめ)
1972年大阪生まれ。近畿大学理工学部電子工学科(現・電気電子工学科)卒業後、コンピューター関連の電子設計の仕事に2年間従事した後退職、エコール辻大阪に入学。卒業後は、関西の有名フランス料理店で修行。2002年に渡仏、ロワール地方の『ベルナール・ロバン』をはじめとする一つ星、二つ星レストランで修業を積み、2005年に帰国。現代フランス料理界の巨星ミシェル・ブラスが北海道オープンした『ミシェル・ブラス トーヤジャポン』で肉部門シェフに就く。2008年5月、オーナーシェフとして『Hajime RESTAURANT GASTRONOMIQUE OSAKA JAPON』をオープン。2009年10月、37歳の時に開店後1年5ヶ月というミシュラン史上最短記録で三ツ星を獲得。2012年、店名を『HAJIME』に改め、一日一営業化へ。「Asia’s 50 Best Restaurants Awards」にランクイン。フランスの雑誌「LE CHEF」の「世界を代表するシェフ100人」にも選出。
≫レストラン「HAJIME」Webサイト http://www.hajime-artistes.com/

“自分の根っこ”への気付きが創作への世界観を激変させた。


――“料理を通じて宇宙の均衡と調和を表現する”どうしてそのような壮大なテーマにいきついたのですか?

それは、まずその当時の自分自身を全否定されたところから始まっています。オープンして半年、まだどのようにクリエイトすればいいのかまだ迷っていた頃です。その迷いを知るために、再度フランスの友人シェフのお店に研修に行ったのです。そこで苦労して創作していた当時の料理を全否定されました。「これはダメだよ。修業先のコピーじゃないか!」と。その時は「そんなことはない!」とホント大喧嘩になりました(笑)。ですが確かに当時の料理に“自分”はいなかった。

――三つ星を獲った時もですか?

そうです。当時、店はリピートして頂けるゲストも多く、電話は1日400本! 睡眠2時間、体力的にも精神的にも限界でした。フランス料理で学んできたことや文献から得たことを組み合わせて、なんとか料理を生み出している状態。苦しかった。もう店に行くのもイヤでイヤで(笑)。結局、本当のクリエイトができていなかったのです。

――その状態を、どのようにして乗り越えたのですか?

自己探求です。自身の根源はどこにあるのかを探そうと思いました。まず、この業界に入ったのは26歳です。26歳以降はフランス料理を学んだわけです。では、それ以前は、母親がつくった料理や友人と食べた料理、いわゆる日本にある食事を食べていたわけです。そこで、日本に目を向けるわけです。



――それから日本料理も学び始めたのですか?

そうです。それから日本のこと、日本の料理を勉強しました。そのために京都の料亭や懐石に行くようにすると、そこには茶の美意識がありました。本当にすごいと思いました。すべてのものに意味があるということを知りました。それで、茶を色々と勉強すると千利休の美意識にたどり着きます。利休は禅宗なので、宗教も勉強しました。ただ、そこで感じたのです。またここで茶を勉強することは、フランス料理を勉強することと同じではないか。利休も1人のアーティストであれば、私だって、同じように私が美しいと思う美意識を表現してもいいのではないかと。

――自分の根っこはフランス料理でも日本料理でもないところに?

そうなんです。そして、自分の根っこを幼年期の原体験に見つけました。子どもの頃、大阪・枚方市の田舎で育ったのです。毎日山に行ったり、川の中に入ったりして遊んでいました。そうすると、季節の移ろいとともに変わる風景、風の香り、生き物の息吹。小さいながら、地球と宇宙と小さな僕自身の関係がつながっていることを感じていたのです。その時に感じた美しさを思い出したのです。「これだ!これを表現しよう!」と思ったのです。それが、「料理を通して、宇宙の均衡と調和を表現する」という壮大なテーマにつながったのです。

――自分の根っこが分かって、何かが変わりましたか?

まず、フランス料理の肩書きを外しました。HAJIMEの世界観を表現していこうと。そして、考える時間をつくるために、2012年にお店の形態を1日一営業にしました。フランス料理を取り去ったことで、新しいことをクリエイトすることが楽しくなりました。


ミリ単位のこだわり。料理の枠を超えて新しい世界を創る。




――米田さんをシェフと呼ぶ人もいればアーティストやアスリートと呼ぶ人もいます。

自分のことをシェフとは思っていないんです。子供の時に「将来の夢はシェフ」と作文に書いたくらい、憧れていたのに(笑)。開店当時もシェフでありたいと思っていました。ですが、今は違いますね。強いて言えば、“今をよりよい形で次の時代へ繋ぐ人”かな。これまでも新しい料理を発表すると、インターネットを通じてあっという間に日本中へ伝わって、みんなが一斉にコピーするんです。自分自身に影響がある、ということを自覚しましたね。だから、次の時代への“階段”を作る責任があるな、と。使命というか何かに引っ張られている感じがします。

――今の創造の源は?

創造の源はすべてです。今は様々なことに興味があります。宇宙科学、人工知能、ロボット工学、哲学、医学・・・・。そのために本もたくさん読みますし、実際にその分野の第一人者の教授に会いに行き、話を聞いたりもします。そして、ガストロノミーがそれぞれの分野と関われる可能性を模索しています。

――近畿大学理工学部時代での経験は今に繋がっていますか?

繋がっていると思いますよ。学生時代は、「この選択でいいのかな」と惑いながら過ごす普通の大学生でした。空手にのめり込んで正道会館に通い、休みの日はバイト。そのお金で海外旅行、テスト前は必死で勉強、みたいな(笑)。そんな普通の生活を送り、卒業して電子設計の仕事を2年勤めたからこそ、今の業界を一歩引いて見ることができます。料理の世界にどっぷりだったら、気づけないことが多い。例えば、長時間勤務&薄給で人が続かない異常な環境。今、そんな待遇改善にも取り組んでいますよ。

――ひとつの世界しか知らないと、外から見たら異常なことにも気が付かない、という事ですね。

そうですね。ひとつのことに執着すると「深化」につながりますが、「進化」はありません。深く掘り下げていくことも大切ですが、進化してくためには、それぞれの分野の間にある部分とのつながりを探す必要があると思います。

――理工学部、電子設計の経験からでしょうか。厨房では緻密でミリ単位の指示、と聞きますが?

建築業界やコンピューター業界では、図面にきちんと寸法があります。でも料理の世界では曖昧なところが多い。例えば「みじん切り」という指示。そこには寸法がありません。なので、頭の中で考えていること=創造性を、できるだけ図面・数値化しています。例えば、ミリ単位での野菜の切り方や野菜の水分保有率を具体的に伝えたり、調理では最適な塩分濃度を決めたり。テーブルセッティングにスケールを用いるのもそんな理由です。1ミリ違えば表現もガラリと変わります。



――認識が共有しやすくなるということですね。

ええ、レストランはチームプレイ。そうすることで全体のレベルを上げることができます。それに、学問としても遺せますよね。数値化することができれば、20年後、厨房には必ずロボットが入りますよ! 人間より間違いはありませんし。逆に「こうしたほうがいいよ」と提案されるかも(笑)。


ヒトに希望を与え、進化を促す創作を続けたい。


――今まさに料理の最先端を走ってらっしゃいます。

そうですね。私たちが今の時代でできることを精一杯やり、次の時代にいい形で手渡すためには、まだまだやらなければいけないことがたくさんあります。そのために常に最先端で戦い続けたいと思っています。

――どういったものでしょうか?

まだ具体的ではないですが、食べると脳に映像が浮かぶものだったり、デジタルを通して味わえるものだったり。誰もがまだやっていないことをやっていきたいですね。

――新しいことと言えば、ミラノデザインウィークでインスタレーション(空間芸術)をされましたよね。

そうです。2015年4月に世界中のトップデザイナーが集まる「ミラノデザインウィーク」にフードデザイナーとして参加して、五感を通しての空間芸術をデザインしました。そのひとつは雨を感じるブースです。雨はネガティブなイメージですが、それをポジティブに捉えてもらうアート作品です。ブースには、雨を表現した光の粒があります。それを見ながら、雨の「音」がするスパークリングキャンディを食べてもらう。そうすると口の中でパチパチと雨音がなり、味覚を通して雨を体験出来る。そしたら、みんな笑顔になる(笑)

――ぜひ体験してみたいです!

味覚を含めた五感で空間アートを体験出来る仕掛けです。食事には、生命を維持するために食べるという部分がありますが、私たちがやっているガストロノミーは心を満たす部分です。その創造性だけに特化できれば、レストランという形態はもういらないのかもしれません。

――食べる、という行為からは離れない?

そうですね、食べるという口中の感覚を使う行為からは離れないと思います。生命は新しいものを食べることで進化をしています。それはヒトも同じです。肉を食べることによって脳が大きくなったり、加熱調理することによって消化器官が小さくなったり。そう考えると、新しい分野の料理は、ヒトの進化に関わっていくのだと思っています。人間は脳を持つことで、未来を考えることができるようになりました。その反面、不安な気持ちも持つようになっています。料理の根源にあるものは「希望」です。不安な世の中をいきていく人間が生きる希望を見出せるように、「食べる」ということをもっと深く、新しく探求していきたいと思っています。

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