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2016.02.04

技術革新から難民受け入れ問題まで。今こそ建築改革のチャンスだ 【後編】

Kindai Picks編集部

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KINDAIサミット

日本の住まいの在り方は、少しずつであるが確実に変わりつつある。前編に引き続き、設計、アロマ、リノベーション、地域創生…それぞれの分野で活躍する専門家が、これから建築業界が果たすべき役割について語る。

<KINDAIサミット2015第3部分科会B「10年後の日本を創る~新たな“住環境”を提言~」より>

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スピーカー
湯川弘子(ゆかわひろこ)
株式会社湯川弘子環境デザイン一級建築士事務所 代表取締役社長
1980年近畿大学理工学部建築学科を卒業。設計事務所を経て、2004年に株式会社湯川弘子環境デザイン一級建築士事務所を設立。高齢者向けの施設に特化した設計やデザインを手掛けており、高齢者関連の専門書出筆や、高齢者新聞等のコラム掲載も。


片岡郷(かたおかさとし)
アットアロマ株式会社 代表取締役CEO          
1985年近畿大学法学部を卒業し、ボッシュ株式会社に入社。同年、株式会社環境情報サービス(現・株式会社ディーサーブ)を設立。1998年アース・スタジオ株式会社(現・アットアロマ株式会社)を設立。「アロマで空間をデザインする」をコンセプトに、全国1,500カ所以上で香り空間を提供している。


山下智弘(やましたともひろ)
リノべる株式会社 代表取締役
1997年近畿大学理工学部を卒業し、ゼネコン、デザイン事務所、家具工房などを経て、2003年にデザイン事務所fieldを設立。2004年株式会社esを設立。2010年に中古住宅のリノベーションに特化したリノベる株式会社を設立。リノベーション住宅推進協議会の理事も務めている。


寺川政司(てらかわせいじ)
近畿大学建築学部 准教授・CASEまちづくり研究 顧問
神戸大学大学院で博士課程を修了し、1998年に建築設計・まちづくりコンサルタント事務所であるCASEまちづくり研究所を設立。コミュニティアーキテクトとして、新たなハウジングやまちづくりに従事。専門はハウジング、まちづくり、都市・地域計画。2004年「現代長屋TEN」で大阪市ハウジングデザイン賞を受賞。



モデレーター
岩前篤(いわまえあつし)
近畿大学建築学部 学部長
1984年神戸大学建築系環境計画学科を卒業、1986年神戸大学大学院を修了し、住宅会社の研究所に就職。住宅の防露・省エネに取り組む。1995年博士号取得。2003年近畿大学理工学部建築学科へ。2011年の建築学部創設と共に学部長に就任。




ある程度の好みはITが教えてくれる。だからこそコミュニケーションが大切


岩前:ハウスメーカーはお客様のニーズにすべて応えるという立場にあると思いますが、それについてはいかがでしょうか?



山下:過去にはとにかく雨風を凌がなくてはならないという時代があって、それで大量生産された家が良しとされてきましたが、今はそれ以上の価値が家に求められています。例えば「3LDKで南向きの家が欲しいです」とお客様が言った時、その背景として、子どもが家の中で走り回って転んだ時に、もうちょっと広いリビングがあったらいいなと思ったのかも知れないし、洗濯物が乾きにくいから明るくて風通しの良い家がいいと思ったのかも知れない。そういうことを変換しないといけないんです。設計をされる方でも、コミュニケーションが上手い人は「なぜそう思われたんですか?」という質問を繰り返していきますが、そうじゃない人は「わかりました!」と言って、いくつかパターンを用意するだけです。

私たちは、お客様の本当のニーズを引き出すためにITも駆使していて、例えば「アンティーク風の家がいい」と言われてもイメージするデザインは人によって違いますので、私たちの提携しているサイトの閲覧ページを調べることで、その方の好みをある程度予想できるようにしています。そういう時代が、今はもう来ているんです。

片岡:山下さんが、海外に行ってリノベーションの事業のきっかけに出会ったというお話をされていましたが、教育にはそういう経験が大事なのかなと思います。勉強するとか、知識を詰め込むだけではなく、現場を経験することが真の教育に繋がるのだと思います。私たちはベルリンにオフィスを持っていてヨーロッパで仕事をすることも多いのですが、家の在り方を見てみると、空調一つ取ってみても、設計思想が日本とは全然違います。そういうのを現地に行って自分の目で見ることで、日本に帰って来た時にアイデアを発展させることができるのだと思います。




空き家から難民受け入れまで。あらゆる社会問題への挑戦が始まっている


岩前:それでは、ここからは会場の方にご質問いただきましょう。

大学生(建築学部、3年):将来は、空き家や空き店舗などを再価値化して、地域に還元する仕事をしたいと思っています。そういう仕事をするためには、どんなことを心掛けていれば良いでしょうか?

山下:建築家の人たちといると、マーケティングの話をすることがほとんどです。リノベーションは方法なので、そもそも再価値化というのは何なのか、どんな価値があれば人の心を捉えて流通していくのか、そういったことを考えるハートを持っている必要があると思います。経験を積んでいくと、ついフレームワークに当てはめてしまいがちですが、そうではなく「いや、こういうやり方もありなんじゃないか?」と考えるのが大事ですね。

寺川:空き家や空き店舗などの既にある物件を活用しつつ、耐震構造もしっかりしないといけない。国も「ストックを活用しなさい」という政策を掲げつつ、一方では「耐震構造もしっかりしなさい」と言っていて、このダブルスタンダードがここ何年か続いています。耐震構造については偽装問題のこともあり、これからもっとチェックが厳しくなって、デザインや仕組み作りの幅が狭まってしまう可能性があります。そういう意味では、今までより柔軟な発想と工夫が求められます。



岩前:それと、点ではなく面で考えないとダメですね。そこに住むことで、どれくらい持続的な収入があるのかなど、建物単独ではなく、すべてのことを含めてて考えることが大切です。京都の町家街でも、随分前に商店が全部レストランに変わっていきましたが、今ではもう潰れているところもあります。やっぱり、どうやって生活して持続させていくかというモデルがないと、続かないんですね。

湯川:空き家対策を既に始めているところはあります。役所に頼らず、まずは町内でやっていきましょうと働きかければ、いろんなことが動いていくと思いますよ。



岩前:ドイツが80万人の難民を受け入れましたけど、町村レベルで数人ずつ振り分けるので、村全体がそれによって変わる程ではありません。地域同化というのを前提とした受け入れをしているんです。そういったことも我々が考えるテーマの一つではないでしょうか。

社会人(建築業界関係者):今、CADの時代は終わってBIM(ビム)の時代だと言われていますが、今後10年でそういったツールがどうなるかお答えいただけませんでしょうか。

岩前:2〜3年後のツールは想像できますが、10年後は難しいですね。二次元の図面が三次元に立ち上がって、構造設計・環境設計・法的規制などを全部チェックした上で、即座に見積もりや材料発注にまで繋がる可能性はあります。あとは3Dプリンタができたことで、今までは高かった部品を安く作れるようになり、構造的な自由度も上がっていくはずです。そんな感じで、どんどん変わっていくとしか言いようがありません。あとはもう、それについていく努力を継続せざるを得ませんね。

来場者(建築業界関係者):新しいものも使っていますが、最近は上手くマッチしないないツールもあって、みんな苦労しているのではないでしょうか。

岩前:設備設計というのは、今一番アナログとデジタルが混在していて、例えば床面積あたりの発熱量は今の時代とは合わない数値を用いているので、結果的にオーバースペックな機械を導入していて、それが建物全体を歪ませています。これは制度でなく設計方法の問題なので、業界全体が勉強し直せばすぐ改善されるはずなんですけど、これがなかなか難しい。

山下:ツールについては、想像できることはすべて置き換わると思います。その上で、置き換わらないものを考えるべきかなと考えていて、その一つがお客様とのコミュニケーションです。iPadに質問が出てきてイエス・ノーと回答していっても、本当の答えは出てこないと思いますので、そういったところは残っていくのではないでしょうか。



岩前:ここまで「新たな住環境」というテーマでお話してきましたが、総論として言えるのは、“箱”を作ることだけで実現できることは何もないということです。社会がどんどん変わっていく中で、住まいというのを“箱”で考えてはいけない。でも、今の建築業界は“箱”で考えるという古いやり方がまだまだ残っている。ですから、私たちのように小回りの利く立場にいる人が、海外とも繋がりながら、新しいものや新しい技術にいかにトライしていけるかが大事なのだと思います。



前編では、住宅に対する古い考え方に立ち向かう先駆者たちの熱い想いに迫ります。
<→住環境に革新を。古い概念に立ち向かうイノベーターたち【前編】に進む>




▼KINDAIサミットとは
http://www.kindai.ac.jp/kindaisummit/


▼岩前 篤×湯川弘子×片岡郷×山下智弘×寺川政司 「10年後の日本を創る ~新たな“住環境”を提言~」 (YouTube)

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