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2023.09.04

認知症新薬「レカネマブ」とはどんな薬? 認知症と新薬について近畿大学医学部の専門医が解説

Kindai Picks編集部

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日本の「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同で開発したアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が、国内で実用化される見通しとなりました。「レカネマブ」とはどんな薬なのか?認知症とはどんな病気なのか?近畿大学医学部医学科の花田一志講師に聞きました。

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PROFILE
花田 一志(ハナダ カズシ)
近畿大学医学部医学科(リハビリテーション科) 講師/医学博士
もの忘れ診断外来で認知症の診断、治療を行い、地域との連携を進めています。また、リハビリテーションの中での認知症の位置づけ、道路交通法などの高齢者をとりまく法律の問題についての検討を行っています。
教員情報詳細

近畿大学病院




――Q、そもそもアルツハイマー病とはどのような病気なのでしょうか?
花田:認知症とアルツハイマー病を同じものと認識している人がよくいますが、実は認知症=アルツハイマー病ではありません。アルツハイマー病とは、認知症を引き起こすさまざまな病気のうちの1つで、認知症の半分以上を占めるといわれ、認知症の一番多い原因疾患です。


――Q、では、アルツハイマー病はどのようにして発症するのでしょうか?
花田:アルツハイマー病は突然発症する病気ではなく、20〜30年の経過があります。

上の図は、アルツハイマー病の経過を示しています。
まずアルツハイマー病と診断される約30年前の段階でアミロイドβが蓄積しはじめ(赤)、その次にタウが蓄積してきます(青)。
そして次第に物忘れなどの臨床症状(黄)が現れてMCI(軽度認知障害)の段階になり、アルツハイマー病と診断されます。
たとえば80歳でアルツハイマー病としての症状が見られた場合、50歳ごろから神経細胞周辺へのアミロイドβの蓄積が始まっているのです。

――Q、今回承認された、新薬「レカネマブ」はどのような効果があるのでしょうか?
花田:「レカネマブ」は発症の原因となるアミロイドβ蓄積を少なくすることで、進行を抑える効果があります。アルツハイマー病はアミロイドβ、タウの蓄積を重ねた先に症状が現れます。つまり、初期段階でアミロイドβが蓄積するのを抑えて以降の経過を緩められれば、認知機能の低下が少ない初期の状態を長く維持し、アルツハイマー病としての症状出現を抑えることができるとされています。このように、発症後の症状改善を図る従来の認知症の薬剤とは作用の仕組みが根本的に異なる点が新薬「レカネマブ」の特徴で、高い期待が持たれています。認知症の専門家として、私も期待しているところは大きいです。

――Q、投与対象が早期患者に限定されていますが、どのようにして早期の発症を確認できるのでしょうか?
花田:初期症状では物忘れが一番多く見られます。また、時間がわからない、日にちがわからないなどの「見当識障害」も初期症状のひとつです。いまのところ、症状が進んだアルツハイマー病や認知症患者は、かかりつけの先生が見ておられる場合が多いですが、初期に現れる軽度の症状や、前段階(軽度の認知障害)は、専門医の先生が検査をしてより正確に判断をすることが大事になります。初期の段階からアルツハイマー病と診断を下すことができるのは、より詳しい認知機能の検査や「アミロイドPET」などといった特殊で専門的な検査を行う場合もありますし、何より認知症初期の患者さんを多く診察し、さまざまなケースを見てきた専門医に限られてきます。



――Q、先生はこの新薬にどのような期待を持っておられますか?
花田:そうですね。患者様の立場では、症状を遅らせ、良い状態を維持できるということがもちろん大きな期待です。と同時に、周りの介護者へ与える影響にも大きく期待しています。現在では認知症介護のために仕事を休まなくてはいけない、症状が進んだ際には仕事を辞めることも考えて…といった状況になる方が、私の周りの患者様にも多くいらっしゃいます。そういった状況が少しでも減ってくると、本来その人たちが生み出したであろうお金=損失がなくなる可能性があり、社会にとっての影響も大きいと考えております。

――Q、では、今後実用化されるにあたってどのようなハードルがあると思いますか?
花田:初期診断の難しさと、薬価に問題があると思います。薬価については、かなり高額になると予想されており、アメリカでは年間350万円と言われています。日本ではどれくらいになるかまだわかりませんが、保険診療で行うことになった場合、患者の負担が減る一方で、保険医療全体を圧迫し、保険料を払う人たちの負担が増えることにつながり、大きな懸念事項になると考えています。

――――現在、日本にいる認知症患者は約600万人と推定されています。『認知症にならないように』という点から、近年の認知症リスク研究について聞きました――――
国立がん研究センターの研究で、認知症と便に関係性があるという結果が示されています。今年2023年6月に50歳〜79歳の男女約4万2000人を対象とした、便の頻度や硬さなどの指標で調査が行われ、頻度が低く硬いほど認知症リスクが高くなるといった調査結果が出ています。

――Q、この調査結果を先生はどう捉えていますか?
花田:今回の調査結果では、今後もさらなる研究が必要だと考えております。ただ、認知症と便秘の関係は、臨床の現場での肌感覚としても、「便秘になって活動性が落ち認知症につながる」、あるいは「認知症によって活動性が落ち便秘になる」と診察をしていて感じることは多いです。また、認知症に限らず、便秘とさまざまな病気との関係性が注目されていることは確かです。たとえば、便秘になると「せん妄」になりやすいことが分かっています。「せん妄」というのは、わかりやすくいうと、寝ぼけたような状態がずっと続いているような症状で、意識せず、分からないままに何かしてしまったり、変なことを言ってしまったりします。「せん妄」と便秘の関係性は非常に高く、便秘になると「せん妄」になりやすくなるため、夜中に何か言い出したり、他の人に手が出たり…そういうことも起きやすくなります。近畿大学病院全体として入院患者様には便秘が続かないか注意して見ています。



――Q、どれくらいの頻度から便秘とされるのでしょうか?
花田:医学的な便秘の定義には回数は書かれていません。だいたいの目安では、週に2回以下になると便秘と診断されることが多いですが、必ずしも数は重要ではありません。そのあたりは個人差があるので、柔軟に考えてもらって大丈夫です。これからは便の回数も大事ですが、よりスムーズに「バナナ状の便」が出せるかも重要視されるようになってくると思います。

――Q、便秘以外に、認知症リスクが高まると考えられていることはありますか?
花田:生活習慣病が挙げられます。高血圧や高脂血症、糖尿病などは認知症のリスクが高まりますが、中でもそれら病気の治療をしていない人がよりリスクが高いと言われています。また、便秘がこれら生活習慣病につながる、ということも言われているので、やはりさまざまな病気を防ぐためにも便秘には気を付けることが大事です。

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