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学生確保へ積極投資 大学の経営力(近畿大学3)

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読売新聞

2018.03.16

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大学
アカデミックシアター

設備の充実と高い教育の実現には十分な投資が必要だ。その資金を支える近畿大学の財務戦略に迫る。
*本記事は2018年2月6日から4回にわたり読売新聞に連載された「ビジネス潮流大学の経営力」をWEB用に編集したものです。

TOP写真=アカデミックシアター(2017年4月に完成)

赤字の医療部門 改善課題


近畿大の東大阪キャンパス(大阪府東大阪市)に2017年4月、延べ床面積が約2万8000平方メートルを超える大型の学術拠点「アカデミックシアター」が完成した。中核施設の図書館は7万冊の蔵書のうち、漫画が2万2000冊を占める。
人気漫画「ゴルゴ13」のそばには国際政治や戦争史の専門書が並ぶ。気軽に読める漫画をきっかけに、関連する学問に導く仕掛けにした。24時間利用できる自習室や、米CNNニュースが流れるカフェを併設し、経営学部3年の学生(21)は「大学の最先端を走っている感じ。勉強のやる気がわく」と話した。

施設は総額500億円を投じてキャンパスを整備する「超近大プロジェクト」の一環。近畿大にとって最大規模の設備投資だが、全てを自己資金で賄う。
「充実した設備と質の高い教育がなければ、学生から選ばれない。両方にしっかり投資することが重要だ。そのためには安定した財務基盤が欠かせない」。近畿大の“金庫番”である財務部長の関戸智好(58)は強調する。
 

財務見える化


近畿大はかつて、多額の負債を抱えていた。学部やキャンパス拡充、病院新設などを進めたことで借入金などの負債はピークの1992年度に561億円に上り、経営を圧迫した。
98年、三代目理事長の世耕弘昭は「借入金を10年で返す」と宣言。学部新設など投資を抑え、「財務の見える化」を進めた。
法人全体で収支をみる大学が多いなか、企業のように部門ごとに管理する「セグメント会計」を徹底し、借入金は2009年度に完済した。現在、キャンパスや高校、病院など34部門に細分化し、透明性を高めている。

16年度決算は売上高にあたる「事業活動収入」が前期比1・3%減の1356億円、最終利益に相当する「基本金組入前当年度収支差額」は14・4%減の71億円で5年連続の黒字だった。格付投資情報センター(R&I)の格付けでは21段階の上から3番目の「AA」で、財務基盤は「安定的」との評価を得ている。
 

攻守の両立


それでも改革途上の部門がある。関西の総合私立大で唯一持つ医学部と、その傘下にある三つの付属病院だ。
医療部門は全収入の半分弱を占めながら16年度は5億円の赤字だった。高額な医療機器など費用がかかり、手術件数も減少して赤字は3年連続となる。大学全体の志願者数を伸ばし、収入のもう一つの柱である授業料を確保して補う構図が見える。
医療部門の収支改善は最重要課題で、赤字幅は縮小しつつある。医学部長も務めた学長の塩崎均(73)は「医学部の収入は大きいが、何十億の赤字が出る危険性も内在している」という。

17年11月、近畿大は医学部付属病院(大阪府大阪狭山市)の堺市への移転を巡り、病床数を減らして一部を地元に残す計画を変更し、閉鎖する方針を決めた。地元には反発の声もあり、経営効率化との間で難しい判断を迫られている。
関戸は言う。「学校法人なので企業のように利益は追求しない。だが、収支が良くないと大学を継続できない。学生のために利益は重要視していく」。学生を集めるための積極投資と、それを支える財務基盤の安定。「攻守」の両立は、生き残りをかけた私大にとって共通の課題となっている。(敬称略)
 

関西私大の収益

 
一般的な私立大は入学金や授業料が収入の7割程度を占め、学生数の増減が経営に影響を与えやすい。一方、国立大は国からの運営費交付金が収入の柱になっている。関西の私立大の2016年度の事業活動収入(学校法人ベース)は近畿大の1356億円がトップで、立命館大797億円、同志社大594億円、関西大527億円、関西学院大403億円となっている。全国トップとされる日本大(1946億円)や近畿大など、付属病院がある大学は収入が多い傾向にある。
 

私大 経営難で選別も 助成減額 文科省が検討

  
私立大の経営は厳しさを増している。2016年度の大学決算で、日本私立学校振興・共済事業団(東京)が調査した590校のうち約4割の232校が、最終利益にあたる「基本金組入前当年度収支差額」が赤字だった。別の調査では、事業団は112法人の経営が困難な状況と分析している。
関西では15年に聖トマス大(兵庫県尼崎市)が廃止、神戸夙川学院大(神戸市)も学生募集を停止した。文部科学省は、連続赤字や教育の質が下がった法人への私学助成金の減額を検討している。助成金の予算額(18年度案で総額3154億円)が減少傾向のなか、私立大は選別される時代を迎えた。
アジア太平洋研究所の「関西の大学のあり方」を考えるチームで座長を務めた小林傳司(ただし)・大阪大副学長は「関西の大学はまだ地方から人を集める力がある。産官学が一体で各大学の存在感を高める必要がある」と指摘する。

(2018.02.20 読売新聞 大阪朝刊)



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