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2018.03.23

ノーベル賞受賞者も絶賛!「ノーベル・プライズ・ダイアログ」で近大マグロの可能性に迫る

Kindai Picks編集部

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近大マグロ
研究
レポート
オリジナル記事

「The Future of Food 持続可能な食の未来へ」をテーマに、ノーベル賞受賞者や有識者が食の課題について話し合う公開シンポジウム「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018」に近畿大学水産研究所の家戸教授が登壇。セッションでは「近大マグロ」の可能性に注目が集まりました。

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食料供給は人口増加に対応できるのか?


現在、地球の人口は約76億人ですが、2050年には98億人に増えると言われています。
32年後という遠くない未来、地球は果たして100億人もの人間を養うことができるのでしょうか?


©Nobel Media AB

増え続ける地球の人口と、限界を迎えつつある食料供給ーーそうした食の課題をテーマにした公開シンポジウム「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018」が2018年3月11日(日)パシフィコ横浜 会議センターで開催されました。

テーマは「The Future of Food 持続可能な食の未来へ」。食料危機にをはじめ「宇宙食と未来の食」「伝統食と私たちの文化」など、さまざまな角度から食の問題や未来についてのセッションが行われました。

その中から今回は、太平洋クロマグロの完全養殖魚「近大マグロ」を生んだ近畿大学水産研究所の家戸敬太郎教授によるセッションをリポートします。



ノーベル賞受賞者など多彩な研究者が世界各国から集結


「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018」はノーベル賞授賞式の期間中にスウェーデンで開催される一般向け公開シンポジウムの海外版で、日本での開催は2015年3月、2016年2月に続き3回目です。



今回の開催日は東日本大震災からちょうど7年目。シンポジウムの後半には、当時現地入りした専門家を交えて災害時の食の課題を話し合う「災害を超えて」という、震災の経験をふまえたテーマも盛り込まれました。


©Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud

この日、登壇したノーベル賞受賞者は5名。オートファジーの研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典さんなど今、最も注目を浴びる研究者が講演を行いました。

<登壇したノーベル賞受賞者>
●ヨハン・ダイゼンホーファー氏(1988年ノーベル化学賞)
●ティム・ハント氏(2001年ノーベル生理学・医学賞)
●フィン・E・キドランド氏(2004年ノーベル経済学賞)
●アダ・ヨナット氏(2009年ノーベル化学賞)
●大隅良典氏(2016年ノーベル生理学・医学賞)

さらに、アジア初の女性宇宙飛行士・向井千秋氏、学校法人辻料理学館代表・辻調理師専門学校理事長兼校長 辻芳樹氏など、日本だけでなく、世界各国から多彩な専門家が集いました。


©Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud

パシフィコ横浜 会議センターの1階メイン会場はオープニング前に満員となり、会場に入れなかった人の中には、3階に設けられた中継室のモニターでセッションを見る人も。会場を見渡すと、各国の留学生や若い学生のほか社会人や年配の方も数多く、人々の食に対する関心の高さが伺えます。



完全養殖に成功した「近大マグロ」で、日本の食文化を継承




「科学と食」「文化と食」などの興味深いテーマが取り上げられる中、シンポジウムでは異例の「試食」を行なって盛り上がりを見せたのがセッション「海を耕す~養殖マグロの味~」。

登壇者
ティム・ハント氏(2001年ノーベル生理学・医学賞)
1982年「細胞周期の主要制御因子」の構成要素となるサイクリンを発見し、2001年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞。

原山優子氏(前内閣府総合科学技術・イノベーション会議 議員)
教育学博士、経済学博士。2013年から2018年まで総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員を務める。

家戸敬太郎氏(近畿大学 水産研究所)
「近大マグロ」をはじめとした海水魚の養殖・種苗生産について研究。


セッションの一部を翻訳してご紹介します。まず、シンポジウムの司会進行役を務めるアダム・スミス氏の質問からスタートしました。

アダム・スミス氏:なぜ、太平洋クロマグロの養殖が重要なのでしょうか?

家戸教授:現在、太平洋クロマグロの野生種は1960年代の10%にまで減少しています。さらに2014年には、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに掲載され絶滅危惧種に数えられています。そこで、持続可能な供給のために、野生種を捕まえて育てる養殖ではなく、産卵から養殖ができないかと考えたわけです。そして努力が実り、完全養殖に成功しました。

アダム・スミス氏:クロマグロは大きいですよね?そんな大きなものをどうやって養殖するのですか?

家戸教授:大きいといっても卵の大きさは直径1mmほどですし、ふ化直後はせいぜい2~3mmです。それを直径40m、高さ20mのいけすの中で養殖します。


©Nobel Media AB/ Photo: Alexander Mahmoud

ティム・ハント氏:では、養殖が難しいと言われるのはなぜでしょうか?

家戸教授:マグロはとても神経質な魚で、最初の1か月の生存率がほんの3%だからです。さらに、少し成長すると今度は共食いしてしまうのも、難しい点です。

アダム・スミス氏:卵から大きくなった魚は、どのくらい生き残るのでしょうか。

家戸教授:1%未満です。

ティム・ハント氏:一度に採れる卵の数が数百万なら、1%でもかなりの数ですね(笑)。

アダム・スミス氏:それでは、その希少な「近大マグロ」を試食してみましょう。どうぞお召し上がり下さい。

家戸教授:このマグロは奄美大島から冷凍せず運ばれたものです。2013年7月10日に生まれた4歳魚で、体重は99.4kg、体長は1.7m。通常は50kgで出荷しますので、倍ほどの大きさですね。マグロは大きい方が美味しいので、私たちが通常流通させているものよりきっと良い味ですよ。左が赤身、右が中トロです。どうぞ、赤身から食べてみてください。



ティム・ハント氏:マイクに音が乗らないように食べるにはどうしたらいいのでしょうか。興奮で箸がふるえます。(試食)……何という美味しさでしょう、これはありがたい経験です。

原山優子氏:いつもながら本当に美味しいです。食文化について考えた時、マグロはとっても日本らしい食材ですよね。マグロを食べると「ああ、(日本に)帰ってきたな」と思いますから。一方、天然資源が少なくなってきている状況にありながら、私たちは消費しすぎてしまっています。完全養殖が成功したことで、この食文化を私たちの子々孫々まで維持できる可能性が出てきたということは、重要で素晴らしいと思います。

アダム・スミス氏:太平洋クロマグロの自然資源量は、いつごろ増え始めるとお考えですか?

家戸教授:日本政府は2年前から厳しい漁獲規制を設けています。大西洋ではそれ以前から漁獲規制が始まっており、すでに資源の回復が見られています。ですから、近い将来にはぜひ日本でも資源量が増えてほしいと思っています。大切なのは、最適な水準での漁獲・養殖を維持することです。



ティム・ハント氏:ほかの魚も養殖が増えていくでしょうか。

原山優子氏:マグロに限らず増えていますし、可能性も広がっています。

アダム・スミス氏:試食をされたお二方、「近大マグロ」は自然種と同じくらい美味しかったですか?

ティム・ハント氏:比較試験をしてないので、答えられません(笑)。

アダム・スミス氏:原山優子さんはいかがですか?

原山優子氏:もちろん、美味しいです。今日はこれだけ大勢の方が集まっていますから、ぜひ皆さんと分かち合いたいですね。


▼イベント映像
「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018, 科学と食/文化と食」



YouTbe配信チャンネルはこちら



「100億人を養う」食の未来に向けて





「地球は100億人を養うことができるのか?」ーーセッションで「近大マグロ」の可能性に触れた有識者の多くは「希望はある」と口を揃えます。

「100億人を養う」ことは、地球全体で知恵を絞れば可能であるという見解です。

未来の食料不足を回避するには、養殖技術の発展や災害に強い農作物の開発といった科学技術による問題解決が期待されます。一方で、私たち消費者が食生活を見直していくことも大切です。
最新技術を活かし、養殖産業を盛り立てる近畿大学水産研究所の取り組みもまた、課題解決にますます欠かせない存在となっていくことでしょう。



取材・文:酒井直子
企画・編集:人間編集部

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