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落書きのような油彩画が210億円!? 高額アートのカラクリを専門家に聞いてみた

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Kindai Picks編集部

2018.03.02

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オリジナル記事
コラム
社領エミ

丸を描いただけの絵が1億6000万円!?ぐしゃぐしゃに絵の具をたらしたような絵が210億円!?「アート」って、どうしてそんなに高い値段がつくの〜〜〜!?そもそも「アート」ってどう見たらいいの?ピカソの凄さもわからない私が、美術の専門家に根掘り葉掘り聞いてきました。



こんにちは、ライターの社領エミです!

突然ですがみなさん、絵画がどうしてあんなに高いのかって考えたことありますか?


例えば、この絵を見てください。



Ellsworth Kelly, Green White / 1968


この緑色の丸を描いただけの絵。これ、1億6000万円するんですよ……。

な、なんで〜〜〜〜!?!?

さっぱりわからなくないですか!? コレ、私でも描けそうじゃないですか!?
丸描いて塗ったら同じものできそうじゃないですか!?!?



お次はこの絵。



Jackson Pollock, Number 17A / 1948


こちら、210億円します。

ぐしゃぐしゃじゃないですか!?!?

え!? なんで!? どうしてピャーッと描いた感じのこの絵が210億円もすんの……!?
210万じゃなくて!? 2100円でもなくて!? 絵の具の代わりに水銀とかヤバいもんでも使ってんの?



あと、一番驚いたのが……


「よしっ(ち)!!」Mr. / 2011
参照:Kaikai Kiki Gallery ©2011 Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd.


これ、1220万円するんですよ!!

な、なんで〜……!? 何これ??? 何のキャラ? 小学生がランドセル背負ってる萌え絵……?


絵画って、どうしてこんなにワケのわからない高額がつくのでしょうか。

う〜ん、考えてもさっぱりわかりません!誰か、詳しい人に教えてもらいたい……!!


というわけで、ジャン!



近畿大学の文芸学部芸術棟にやって参りました〜!

ここは、文芸学部 芸術学科の実習棟で、演劇・舞踊の公演もできるホールや、陶芸・染織・油彩画などの実習室がある建物なんだそうです。



今回お話をお伺いするのは、文芸学部 芸術学科の教授である伊藤尚子先生

伊藤先生は、教授として生徒に美術を教えながら、作家としても数々の版画作品を発表しては世に送り出してきたアーティスト! 絵画の価格の理由にとてもお詳しい方です。




こんな感じの絵が、どうして何億もするの?





これ、なんで1200万円なの!?


教えて、伊藤先生〜! というわけで、根掘り葉掘り聞いちゃいたいと思います!



なぜ高い絵は高いのか?


今日はよろしくお願いします! 伊藤先生、絵画ってどうして億単位もの値段がついたりするのでしょうか?


はい、よろしくお願いします。事前に頂いてたその質問なんですけども……ごめんなさい、普通のことすぎてなんて説明したら良いのかわからなくて……。



ええー!? めっちゃ美術家っぽい発言……!



美術品が高額なワケを知りたいんですよね。ひとまず、順を追って説明しますね。




価格はオークションで決まる!


まず価格についてですが、高額なものはだいたいオークションで価格が決定しています。


ほうほう。最初に挙げた3つの作品もそうですか?



そうですね。また、買い手は「個人(企業)」と「美術館」の2種類がいて、どちらが買うかで価格の理由が変わってきます。だいたいは、個人でしたら「コレクションのため」、美術館でしたら「集客できるかどうか」などですね。



なぜその価格になるのか


で、なぜその価格がつくのか……ですが、社領さん、「価格=絵の価値」という認識を捨ててください。



え! 1億円の絵より100億円の絵の方が良い絵、っていう認識じゃダメなんですか?


ダメなんです。一般的に、美術品の価格=「需要と供給のバランス」「美的な価値」「希少性」の三点で成り立っていると言われています。


需要と供給のバランス

まず、「需要と供給のバランス」についてですが……これを見てみてください。




こちらは私が最近買った絵です。価格は19万円でした。



ええー! こ、これが19万円……! 正直全然わからないです!



そう思うでしょう。だけど、私にとっての19万円と、先ほどの絵の210億円という価格って、意味合いとしては同じだと思うんですよ。買う人にとっては、その物自体にその価格の価値があったというだけ。

あー! じゃあ例えば、この絵葉書。




Pablo Picasso / 1918

これ、ピカソが友人に向けて描いた絵葉書らしいんですが、ちゃんとした油彩画でもないのに2300万円もするんですよ。どうしてかなと思っていたんですけど……

簡単です、ピカソが描いたからです。ピカソを好きな人には2300万円の価値があった。


ああー! アニメの原画みたいなもん!?



そうかもしれないですね。



なるほど……! 絵の価格っていうのは、「あのアニメの◯◯話、誰々が描いたこのシーンの伝説の原画が、一部のファンにとっては数百万円の価値がある」……みたいな認識でいいんですね。めっちゃよくわかりました。


美的な価値

次に、「美的な価値」について。これは、作品を見ながらお話しましょう。




まず、210億円のこちらの作品。この絵を描いたジャクソン・ポロックという人は、顔料を垂らす「ドリッピング」という手法を初めて絵画で使った人。すなわち、「絵画は筆で書くもんだ」という概念を覆した人なんです。だからこんな価格がついた。

えー! 初めて知りました!




Lucio Fontana, Concetto spaziale-Attese / 1964


次にこちら、ルーチョ・フォンタナの「Concetto spaziale, Attese」。これは1億4000万円なんですが……


え〜〜!? これが!? これ……絵画に裂け目が入ってるだけ、ですよね!?


そうです。ただ、ルーチョ・フォンタナは歴史的に初めて絵画を切り裂いた人物なんです。切り裂かれたことに意味がある。これを誰かが真似して全く同じものを作っても、同じ価格はつきません。

なるほど。歴史的に価値のある行動をした人の作品だから、こんな価格がつくのか。



希少性

最後に「希少性」。これは単純な話ですね。




Leonardo da Vinci, Salvator Mundi / 1400-1500
参照:Christie’s



この絵は世界で一番高い絵、ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」。価格は508億円。


国家予算やん!



ダ・ヴィンチは、作品数が少ない上に、ほとんどが美術館にしかないんです。出回っているのはこの作品だけなので、ものすごい希少価値があるためにこの価格がつきました。ちなみに、サウジアラビアの王族が買ったそうですよ。

えげつないな!! そんな人しか買えない世界か〜!





高い絵が高い理由はとても複雑


じゃあ先生、こちらの絵はどうして1億6000万円もするのでしょうか? こんなに簡単そうなのに……




この絵がどうしてこの価格なのかは、詳しく知らないのですが……。まずこれ、この印刷した画像で「簡単そう」と判断しない方がいいと思いますよ。実物は印象がずいぶん違うはずです。例えば、ロスコの作品が近いかもしれないんですが……



あー! こういう作品、美術館にあるけどよくわかんないやつだ。



私、この作品大好きなんですよ。単純な絵に見えますが、実際に目の前にすると迫力が全然違うんです。色が前に出てくる感覚がして、なんとなくほっこりするような、いい絵なんです……

緑の丸の絵も、実物を見たら納得できたりするのかな?



もちろん、価格の理由は他にも色々あるはずです。美術品の価格は時代の潮流によっても乱高下しますし。



「激動する赤」白髪一雄 / 1969年
ロープにぶら下がり足で描いた作品。当初は美術界から全く相手にされなかったが、ヨーロッパで再評価され始めたことをきっかけに、制作から45年後(2014年)には5億5000万円の価格がついた。


値付けされる場所やオークション参加する人が違うだけでもずいぶん変わります。私は作家もやっているんですが、作品を画廊で売るのとデパートで売るのとでは売り上げが一桁くらい変わりますよ。

えー! どっちの売り上げが多いんですか?



もちろんデパートです。外商でも取引されるので。



なんか、金持ちウケする絵ほど価格が上がるのかな……? 貧乏人にしか響かない絵は、どんだけ良い題材でも数万にしかならないのかもしれない。

ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」も、あれってダ・ヴィンチが亡くなった時に部屋の隅に置いてあった絵でしょう? でも、「モナ・リザ」も様々な偶然が重なることで、世界一有名な絵になったんだと思うんですよ。高額な絵は、複雑な偶然が絡まり合ったからこその高額なんだと思います。

じゃあ、伊藤先生……





この絵が1220万円な理由は、なんなんですかね……?



これは私にもわからないです……





わかんないんだ!?



既視感があるし、私にとっては全然良い作品ではないですよ。私にとってはね。でもこれは村上隆の弟子のMr.(ミスター)という方の作品で、東日本大震災のチャリティーオークションで出品されて、そこで1220万円で買う人がいた。その人にとってはそれだけの価値があったということです。

そうか、「そこでその価格で買う人がいた」、それだけなんだ……!


※Mr.さんは、アニメやゲームキャラクター風の少女の絵をアナログな手法で描き、日本のオタク文化を現代美術として確立したアーティスト。これまでにフランス、アメリカ、イギリスなど各国での展示会のほか、2014年にはファレル・ウィリアムスの楽曲PVを手掛け、世界中で高く評価されている方です。


美術は、興味がなければ「知らんがな」でいい


ただ、ここまで聞いても未だに「それにしても高すぎない?(笑)」と斜に構えてる自分がいて。それって、美術の価値が理解できないことをある意味コンプレックスに感じているからなのかな、と思うんですよ。

コンプレックス……?



私、どれだけ評価されてる絵を見ても、だいたい凄さがわからないんですよね。美術館に行くと、自分だけアホみたいで恥ずかしくて。


いやいや、わからないならそれいいんですよ! 例えば……ほら、これ見てください。




なんですかこれ、鉄骨が組み合わさってる作品……?



コメントに困りますよね。



困ります。え! 先生もそう思われますか?



思いますよ! コメントに「室内をデッサンしているんです」って書いてるけど……工場に行ったらこういうの落ちてますよね……。別に嫌いではないんですが、私は「あ、そう」って感想ですね。

で、これも見てみてください。


Ron Mueck, A Girl / 2006
参照:HAUSER&WIRTH



赤ちゃんの……フィギュア? ですね。



この赤ちゃん、実は全長5メートルある超巨大赤ちゃんなんですよ。



ええーーー!?!? すごい、そんなにでかいの!? それは圧倒されそう!


でしょう!



あ、すごい……。さっきの作品は全然わからなかったのに、これはわかった。


アートは沢山あるんですから、わからないものはあって当然なんですよ。もちろん知識があった方が楽しめますが、コンプレックスを感じる必要なんて全くありません。


でもなんか、美術館ってプレッシャーがあるんですよ。みんな知的な顔しながら黙って作品を見てて……変なこと言ったら馬鹿にされるんじゃないか? とか思っちゃう。

社領さん。ちょっと前ね、有名な美術館に、イタズラで、自分の眼鏡を展示物のように置いた人がいたんですよ。


えー!? そ、それっていいんですか!?



もちろんダメです。でもやったんです。そうしたら、それを公式に展示されているものだと勘違いして、神妙な顔して眺める人が続出して……

だ、ダッサ〜!!!



そんなもんなんですよ。みんな神妙な顔してるけど、意外とわかってなかったりするんです。


「ふーん、なるほどね」みたいな顔して美術館を歩いてる人にムカついてたけど、そんな必要なかったんか! アイツら、わかってないんか〜!!



そうです、半分くらいの人は何もわかってないと思ってください。興味がなければ「知らんがな」でいいし、数億円の価格があろうと嫌いでもいいんですよ。直感で楽しむだけでいいんです。あの横尾忠則だって「アートは直感で楽しむもの」と言ってるんですから。

そうか、直感でいいのか……。



美術はもっと楽しんでいい


私、美術に対してものすごい壁を持っていた気がします。「直感で楽しむ」、単純な話だったんですね。


そうですよ。それに、美術館は楽しいので積極的に行ってみてほしいです! 最近のミュージアムショップなんて、その辺の雑貨屋さんよりも面白いものを揃えていたりしますよ。カフェもあるし、デートにぴったりです。もし美術館が気に入らなければ、その美術館が気に入らなかっただけ。



面白さを感じられなかったらイヤだなと思っていたけど、それって映画も同じですもんね。色んなものがあるんだから、自分に響かないものもあって当然か。

はい。あと、美術の知識を聞いても引け目を感じなくていいですからね。私は音楽のことは全然知らないですし、何でも知ってる人なんているわけないんですから。もっと気楽にアートを楽しんでみてください。きれいだと思ったら「きれいだな〜」とコメントをする、それでいいんです。私としては、それをきっかけに、より深くアートの世界を知ってもらえると嬉しいです。

美術品の価格の秘密もじっくりお聞きできたし、美術に対する固定観念も和らぎました……!

伊藤先生、今日は大変面白いお話をありがとうございました!



誰にでも「わからないもの」はあっていい!



取材後は、文芸学部の教授の作品を見学しました。直感で見ています……!

みなさん、伊藤先生のお話はいかがでしたでしょうか。

いや〜! 美術品の価格って、「複雑な偶然が重なってその値段で買う人がいた」、それだけの話だったんですね〜!

高価な価格がつくのには、それだけ複雑な理由がある……。

また、今まで「アート」という単語に高尚な響きを感じてしまっていましたが、それを取っ払えるようなお話が聞けて、個人的にはとても面白かったです。



そもそもアートがとっつきにくいのは、宗教画も抽象画も現代美術もインスタレーション的作品もすべてが「アート」として纏まっているからじゃないか? と思ったりもしました。

それだけジャンルがあれば、そりゃわからないものもありますよね。私は美術品の価値がわからないけど、美術家にとって価値がわからないものもある。それぞれの趣味に「どっちが上か下か」と自分の中で優劣をつけて引け目を感じる、それ自体がおかしなことだったんですね……。

これからはもっと単純な気持ちでアートに触れられそうです!

あと私、思ったんですよ! 今まで誰かと美術館に行くときは「アホなコメントをして呆れられたらどうしよう」と怯えたりもしていましたが、「アホなコメントをしても呆れへんヤツ、絶対ええヤツやん!」と……!

そういう判断をするためにも、デートで美術館に行くのは良いかもしれませんね〜!!


ただの廃材もアートに見えてきた…!


それでは!
この記事で、みなさんとアートとの距離が少しでも近づいたなら幸いです。

社領エミでした。


(おわり)

※文中の価格は落札当時の為替レートを参考に表現しています。
※記事の一部についてご指摘がありましたので、当該箇所を修正しました。(2018.3.5 16:00追記)


ライタープロフィール
社領エミ
アホなフリーライターの社領エミです!!取っつきにくいことをわかりやすく噛み砕いたり、みんなが気になることをインタビューしたり、ジモコロ、マイネ王等で書いてます。本名です。
@emicha4649


企画・編集:人間編集部



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