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2016.11.14

気持ちを伝えあうほど仲が深まる。心理学者が教えるけんかにならない会話術

Kindai Picks編集部

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コラム
心理学

話し合いをするつもりだったのに、気がついたらいつも口げんかに…。夫婦や親子など、家族との会話がうまくいかない人には共通点がありました。大切な人と良い関係を築くために必要なコミュニケーションのコツを、心理学者がお伝えします。

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【プロフィール】

塩﨑麻里子(しおざきまりこ)
近畿大学 総合社会学部 心理系専攻/准教授

2009年近畿大学国際人文科学研究所・助教、2010年近畿大学総合社会学部・講師、2016年同・准教授に。家族心理学、特にがん患者とその家族が直面する問題を心理学的な側面から理解し、支援方法を提案する「サイコオンコロジー」を専門としている。


●お金?才能?見た目?…ハーバードが解明した、人生を幸せにするものとは

「人生を幸せにするものは何か?」ハーバード大学のあるチームが約80年に渡って調査をしたところ、面白いことがわかりました。それは、なんだと思いますか?

例えば、「自分より幸せだと思う人」をイメージすると色々なアイデアが出てくるかもしれません。お金を持っている人?才能があり成功している人?整った顔立ち、高身長、スタイルが良い人?頭がいい人?

たしかにこれらは、「人の幸せ」に弱〜中程度の関連はあります。しかし、人生を幸せにするという意味で、決定的な要因となっていたのは、それらではなく、家族に代表される「親しい人との温かい関係」だったのです。

“親しい人と温かい関係を築くこと”それは人生における最重要課題といえるのです。しかし、わかっていたとしても、つい不毛な親子げんかや夫婦げんかをしてしまい、無駄に相手を傷つけてしまうもの。不毛な口げんかをせずに、関係を大切にし続けるには、一体どうすれば良いのでしょうか。


●思いとは裏腹に…口げんかをエスカレートさせていたある発言

ある調査では、夫婦が口げんかをする頻度は、「月1〜2回程度が30%」「年に1〜2回が22%」「週1〜2回が18%」「しないが30%」と報告されています(マインドシェア調べ)。それでは、こういった口げんかの頻度が、離婚といった関係性の終わりに大きく関係しているのでしょうか。実はそうではありません。

アメリカで行われた3000組以上の夫婦を35年以上に渡って追った縦断的観察研究では、夫婦関係が続くかどうかは、口げんかの頻度ではなく、あるコミュニケーションのパターンが関係しているといわれています。それは、「お互い感じている不満について話をした時、建設的な話し合いができるか、それとも不毛な口げんかになってしまうか」であり、不毛な口げんかの特徴は、「批判」「防御」「見下し」の3つであることがわかりました。この点に注目すれば、たった15分間夫婦の会話を聞くだけで、4年以内の離婚を94%の確率で推測できるというのです。

例えば、会話をしているうちに「なんでいつもそうなの!」「どうしてそういうことするの!」「あなたは私のことを全然考えてくれてない!」といった批判をしてしまうことはありませんか。こう言われた方は、「自分だって頑張っている」「あなただって、こんなところは出来ていない」と防御体制に入り、相手と同じように攻撃を始めてしまいます。そして、何について話し合っていて、何を解決したいのかを忘れてしまって口論となり、「そもそもあなたはいつも…」と相手を見下す発言をしてしまうわけです。

実際、夫婦間の口げんかの内容第1位は、子どものことでも、お金のことでもなく、「相手の発言や態度について」であることがわかっています(アメリカンホーム保険の調査及びオリックス生命保険の調査より)。一緒に楽しい人生を送りたい、そのためにお互い歩み寄って、良い関係を築いていきたい…だから、話し合いが始まったはずなのに、いつの間にか内容そっちのけで、「相手の発言や態度について」多大な時間と労力を割いて口げんかしている…なんてご夫婦も少なくないと言えそうです。


●たった一言で、会話の流れは大きく変わる

同じような場面は、親子の口げんかでも見られます。



この例では、母親が「どうやったらそんな点数とれるの?ちゃんと勉強してないからそんな点数なんでしょう!やる時は、やれって言ってるのに!」と批判してしまったところ、息子が防御体制に入っています。その後はお互いに攻撃をし合っているだけで、問題解決のための会話ができていませんよね。

もし母親が、「どうやったらそんな点数とれるの!」ではなく、「数学、わからないところたくさんあるの?」と、相手を心配していることを素直に伝えたら、例えば以下のような建設的な会話ができていたかもしれません。



コミュニケーションは、一言違えばその後の展開も違ってくるのが面白いところであり、怖いところでもあります。母親は息子を心配しているし、息子も母親が心配しているのはわかっているはず。実は、怒りや不満の背景には、大抵、相手への心配や不安といった温かい気持ちが隠れていることが多いのです。「感情についての会話」は、ストレートに伝えることが難しく、ミス・コミュニケーションを起こしやすため、不毛な口論の火種になりやすいと言われています。相手を批判する形ではなく、気持ちを素直にわかりやすく伝えることが、建設的な会話を続ける大切なポイントとなります。


●永久保存版「家族間の会話がうまくいく3つのコツ」

それでは、具体的にはどうすればいいのでしょうか。家庭内でコミュニケーションを取る時のコツを3つにまとめてお伝えしたいと思います。

(1)気持ちをわかりやすく伝える努力をする
どうしても家族という親しい関係だと、「わかってくれているはず」という気持ちが働きます。しかしコミュニケーションは言語以外の表情や声の高さ、速さなどの非言語で伝わることが70-90%です。言葉で伝わるのはせいぜい1割から3割程度なのです。また同じことを言っても、相手との関係性やタイミング次第で解釈が変わってしまうこともあります。ですから、伝わりにくいことを前提として、できるだけ自分の気持ちを相手にわかりやすく伝えることが大切です。

(2)不満を溜め込まない
多くの場合、関係が壊れるのは、何かを言ったことではなく、言わなかったことが原因だと言われています。まずは小出しに伝え合うことを習慣にしてみてください。我慢して、ため込んだ不満は、濃縮され、「なんで、〇〇するの?あなたはいつもそう!」と、相手側からは大きな批判として伝わりがちです。具体的に自分が何に困っているかを伝え、「あなたが〇〇してくれたら、助かるわ」と相手にどうして欲しいのかを気持ちを添えて伝えましょう。

(3)自分が変わるという視点をもつ
関係がうまくいかない時、「相手がこうだから、自分はこうなってしまう」といった直線的な因果律で考えてしまいがちですが、家族の関係性においては、以下のように円環的な因果律で考えた方が良いと言われています。



例えば、母親の過干渉が原因となり、結果として子どもの反抗的態度がエスカレートするケースです。よくよく円環的にみていくと、それだけでなく、父親が放任していることにも母親は苛立っていて、それがまたひとつの原因で父親の前で子どもをさらに強く叱ってしまうことが悪循環を形成しているかもしれません。その場合、父親の協力によって、母親と子どもの関係性が変わる可能性もあるのです。

こじれた関係においては、相手をうまくいかない原因として考え、ついつい、相手が変わらないと、うまくいかないと考えてしまいがちです。しかし、家族の関係性は円環的です。自分が変わることで、必ず相手にも影響があります。関係性がこじれそうになったら、まずは「自分が少し何かを変えてみよう」と思う視点が、とても大切です。


●さいごに…

さて、色々とお話ししてきましたが、最後にもうひとつだけお話ししておきたいことがあります。私の専門は、がんと診断された患者さんとご家族の直面する問題を心理学的な側面から理解し、支援方法を提案する「サイコオンコロジー」です。そのため、よく聞かれる質問があります。「がん患者には何と声をかけたらよいのでしょうか?どのような接し方をしたらよいのでしょうか?」

いつもお答えするのは、「誰にでも当てはまる魔法の言葉や接し方はありません」ということ。がん患者さんは、診断される直前までは、誰かのおじいちゃんだったり、誰かのお母さんだったり、普通の家族の一員です。答えは、それぞれの家族の中にあります。

家族の誰かが、大きな病気になった時、私たちはそれまでどういった家族関係を築いてきたのかが問われることになります。何を語り合ってきたのか、どんな風にお互いに向き合ってきたのか…。
最後にもう一度。幸せな人生には、“親しい他者との温かい関係”が最も重要です。家族と不毛な口げんかになった時は、ここでお伝えしたことを一つでも思い出していただければ嬉しいです。

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