2015.10.18
人気ゲーム「モンハン」一作に300人 チームを率いるリーダーに必要なスキルはこれだ
- Kindai Picks編集部
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近畿大学在学中は、キャンパスの近くにあるゲームセンターへよく行っていたという辻本氏。現在はゲームプロデューサーとして、プロジェクトを管理し、チームを束ねている。そんな辻本氏に、モンハン大ヒットや、チームで仕事を進めていくために大切にしているポイントを語ってもらった。
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プロデューサーが、ゲームを「作る」のに使う時間は半分以下!
ー辻本さんは現在、ゲームプロデューサーという立場でいらっしゃいますが、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
ゲームを作るときは、プログラマー、デザイナー、モデラー(キャラクターの形を作る人)、モーション(動きを作る人)、背景、UI、サウンドなど各専門分野の人たちがいて、それをディレクターがまとめています。プロデューサーは、製作中に定期的な進捗の確認をしたり、何か問題が起きたときに対応したりはしますが、そういったゲームを作る仕事以外にも、プロモーションや販売といったマーケティング関係のこともすべてやっています。クリエイティブな仕事の方が好きですが、ゲームを作る仕事の割合は、すべての仕事のうちの半分くらいですね。
ーUSJともコラボしているようですが、あれもプロデューサーの仕事ですか?
そうですね。コラボやグッズ関係もプロデューサーの仕事で、USJさんとのコラボに関しても私が関わってやっています。当時、ある関係者と話をする機会がありまして、そこでコラボすることがすぐに決まり、3ヶ月くらいで作りました。結構スケジュールは大変でしたね。
でも、社内外問わずクリエイティブな人と話をしているときが一番楽しいですし、実はゲームコンテンツで遊園地を作るのが私の夢なので、USJさんと組めたのはすごく嬉しかったです。
それにゲームをプレーしてもらうためには、まず知ってもらわないといけないので、コラボやイベントは積極的にやるようにしています。知らなかった人に知ってもらうというのはかなり気にしてやっていますね。USJさんとコラボしたのも、まさにそういった狙いがあったからです。
ーイベントなんかでユーザーに会うと、もっとこうして欲しいとリクエストされることはありますか?
ありますあります(笑)。すごくいっぱいありますね。基本的にはゲームに対する意見はいっぱいもらいたいと思っています。ただし、どの意見を生かして、どの意見は採用しないかというのは、プロとして考えないとダメですよね。これを取り入れたらあっちが成立しなくなるとか、そういうゲームのルールにも関わってきますので。
過去の成功事例を、今の時代に合わせて再現させる!
ーモンハンがヒットした理由について、ご自身ではどう分析されていますか?
いろいろな要因があるので一言で説明するのは難しいのですが、例えば、モンハンはプレーが「上手い」ということに対して報酬を支払わないんですね。上手くても下手でも、同じ確率でアイテムが取れたりします。活躍しているかどうかは関係ない。だからビギナーズラックが起こりやすいんです。
ー協力してプレーするというスタイルに関しては?
他のプレーヤーと協力して進んでいくと、周りの人を誘いやすいんです。学生同士とか、バンドメンバーとか、それこそテレビCMにあったようにお笑いタレントの方が楽屋でちょっとした空き時間に一緒にやったりとか。そうやって人から人へと繋がって、ユーザーが増えていきましたね。プロモーションに関しても「他の人を誘いやすいようにしよう」というのがコンセプトでした。
ーみんなでプレーするというのは新しいですよね。
いや、実はそうは思っていなくて。私が子供の頃って、友達の家に行ってみんなでテレビゲームをしたり、正月には親戚が集まって人生ゲームしたり、そうやってみんなで遊んでいたんですよね。最近はそういうシチュエーションがなくなってしまって、モンハンでは今の時代に合わせたスタイルでそれを再現できたということなんです。「新しいスタイルですね!」と言われることが多いのですが、実は「みんなでプレーする」というのは元々あったシチュエーションなんですよ。
ーなるほど、今の時代に合わせると。
はい。それはゲーム機の進化にも当てはまります。据置ゲーム機と携帯ゲーム機では、ユーザーが心地良いと思うテンポが違うんです。インターネットに接続できるようになると、さらに新しいテンポが出てくる。ですから、それぞれのテンポに合ったゲームを作らないと。モンハンも、プレステ用のものと、ニンテンドー3DS用のものとでは、テンポを変えてるんです。
長所を集めてコミュニケーションさせることが、巨大プロジェクト成功のカギ!
ー昔と今で、ゲームの作り方は変わってきましたか?
もちろんです。今は専門分野が細分化されていますし、スタッフも、例えばモンハンの最新作ですとトータルで300人くらいが関わっています。予算も映画を制作できるレベルですね。
それに、今は一つのゲームを作るのに、だいたい2年から3年くらいかかります。それはつまり2~3年後の社会の流れやゲーム業界の流れを予測しないといけないということです。ゲームに限らず、ビジネスプランを考えるときは、現在ではなくリリースする時期の環境を考えた方がいいですね。
ーそういった大きなプロジェクトを成功させるためのポイントは?
コミュニケーションです。ゲームは数少ない天才が黙々と作るような時代ではなくなりました。自分が思っているイメージを、例えばデザイナーに伝えてそれを絵に起こしてもらわないといけませんし、自分が思い描いている動きもまた別のスタッフに再現してもらう必要があります。ゲームも最終的には人が作っているものなので、コミュニケーションを取りながら作っていくしかないんです。ですから、カプコンの開発現場にはパーティションがありません。
ーチームのマネジメントに関して気をつけていることはありますか?
誰でも長所と短所があります。私は、みんなの短所をなくして全体をフラットな状態にするという考え方はあまり好きではなくて、とがっている長所を集めた方が絶対にいい仕事ができると思っています。ちょっとくらい短所があってもいいので、「私はこれが長所です」と言える何かを持っていて欲しいですね。
それと、プロデューサーとして、開発しているフロアへふらっと行って、スタッフの顔色をチェックしたりはしています。疲れているようでしたら「今日、夜ごはんでも行こうか」と誘ったり。
ー後輩や部下にはどのような指導を?
いつも「頭の中で必ずシミュレーションをしなさい」と言っています。スケジュールに関することもそうですし、何かを選択するときのメリット/デメリットについてもそうです。私自身も、シミュレーションすることをすごく心がけていて、何かを決めてくれと言われたときも、必ず頭の中でシミュレーションします。その場で決めないといけないものでも「ちょっと1分考えさせて」と言って考える。
ーシミュレーションした結果、失敗してしまったら?
それは別に構いません。明らかに失敗の可能性が高かったのに、シミュレーションしていなくてそれに気がつかなかったのはダメですが、「こういう失敗の可能性がある」と分かっていて、結果的にそうなってしまったのは全然いいと思います。
すべての物事にはワケがある!リーダーなら、それを考え、メンバーに語れ
ー辻本さんが一緒に働きたいと思うのは、どのような人ですか?
やっぱりプログラマーならプログラミングに関してはすごい知識を持っていて欲しいですし、デザイナーなら絵がものすごく上手い人が欲しいですね。
それに、他人事でなく仕事をする人が好きです。今、自分がやっていることに対して、プライド、自信、やる気、責任を持っている人とは一緒に仕事がしやすいですし、そういうことは会話をしていれば見えてきます。
ーやはり専門性が大事なんですね
そうですね。でも、リーダーと言いますか、チームを率いるポジションにいる人は、やっぱりコミュニケーション能力も大事です。ちゃんと自分が面白いと思う根拠を口に出して話せるというのは、すごく重要。「なんとなく面白いと思うんです」では通用しませんからね。「これのここが面白い」とか「この企画はこういう理由で成立している」といったことを、ちゃんと伝えられる人でないと。
ーそれができるようにするためには?
簡単に言ってしまえば、自分で考えるということでしょうね。例えば何かのサービスのユーザー数を調べて男女比が8:2だったときに「8:2でした、以上!」ではなく、なぜ8:2なのか、次は7:3を目指すべきなのか、もしくは9:1に向かうべきなのか、そのためにはどうするのが良さそうなのか、そういったことをちゃんと自分で考えないとダメですよね。
ー普段からそういうことを考えていないとダメということでしょうか?
そうですね。例えば、映画を観て面白かったなら「あー面白かった」ではなく、「どこが面白かったのか?」「あのシーンはこういう考え方でつくったのかな?」、面白くなくても「おそらくこういう意図があったのに、こうしてしまったから面白くなくなったのかな?」といった具合に、自分で答えを出していくわけです。普段からそういったことばかり考えていますし、チームのメンバーと夜ごはんに行ったときなんかも、ずっとそういう話をしていますね。
物事にはすべて理由があるはず。何かを決めるときも、理由を説明できなければ周りの人は動かないと思います。
PROFILE
辻本良三(つじもとりょうぞう)
株式会社カプコン 執行役員/CS第三開発統括 兼 第三開発部長
1973年大阪生まれ。1996年近畿大学商経学部商学科を卒業。同年、株式会社カプコンに入社し、2004年には「モンスターハンター」の開発に携わる。その後、2007年に発売された「モンスターハンターポータブル2nd」でプロデューサーデビューし、本作品は記録的な大ヒットとなった。以降、同シリーズのゲームプロデューサーだけでなく、「モンハンラジオ 良三の部屋」のパーソナリティなども務める、日本を代表するゲームクリエイターの一人。
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