2023.05.22
抽選に14万通!なぜ人気?74歳の今も「レインボーラムネ」を作り続けるイコマ製菓本舗・平口社長【突撃!近大人社長】
- Kindai Picks編集部
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入手困難で、幻のラムネと呼ばれる「レインボーラムネ」。発案者のイコマ製菓本舗2代目社長・平口治さんは、胃がんと心臓病を乗り越え、74歳の今も工場に立ち、さらなる美味しさを追求し続けています。レインボーラムネの人気の理由、社長の熱意の裏側とは? 第17回目は、近大OBである平口社長に、総合社会学部 社会・マスメディア系専攻の田辺優月さんがインタビューしました。
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あまりに人気すぎて入手困難なため、"幻のラムネ"と呼ばれている「レインボーラムネ」という商品をご存知でしょうか?
「レインボーラムネ」は、奈良県・生駒市にあるラムネ工場「イコマ製菓本舗」が1990年代から製造しているオリジナル商品。半年で3500人分しか製造できないにも関わらず、抽選販売の応募に全国から14万通のはがきが届くほど人気!

カラフルで、一般的なラムネと比べて粒が大きいのが特徴です。口に入れてしばらくするとホロっと砕けて、ジュワッと舌に甘さが広がります。
現在は奈良県生駒市のふるさと納税の返礼品でしか手に入らないのですが、ふるさと納税の申し込みでも、最短8分※で品切れしてしまったそう。
※生駒市のふるさと納税サイトより
どうしてそんなに人気なの? 美味しさの秘密は?
レインボーラムネの発案者である近大OBの平口治社長に、工場を案内していただきながら、「幻のラムネ」と呼ばれるまでになった経緯を伺いました。
人気すぎてレインボーラムネ渋滞発生!?

1948年奈良県生駒市生まれ。1971年近畿大学商経学部 商学科(現:経営学部)卒。卒業後は大阪のアパレル企業に就職し、1972年イコマ製菓本舗を継ぐため実家に戻る。1993年に「レインボーラムネ」を考案し、3~4年後に製造を開始。2008年胃がんのため入院。工場閉鎖を覚悟したが、手術によりがんを克服。

近畿大学 総合社会学部 社会・マスメディア系専攻 2年生の田辺優月です。本日はよろしくお願いします。

イコマ製菓本舗の平口です。どうぞよろしくお願いします。

レインボーラムネはなかなか手に入らない、「幻のラムネ」と言われていますが、今はふるさと納税の返礼品でしか手に入らないんですよね……。

そうなんです。前まではがきの抽選販売やったけど、当選者を決めるのもはがき処分するのも大変でね。今はずいぶん楽になりました。

最初から抽選販売だったわけじゃないですよね。


工場での直売は、近所迷惑になるからやめてん。商工会議所のビルを借りて予約販売したこともあったけど、駐車場が満車になって迷惑やから……って貸してもらわれへんくなって。その後、奈良にある600台駐められる駐車場がある会場で販売したんやけど、朝から駐車場が満車になっただけでなく、京都から奈良の押熊まで渋滞が起きて、京都府警と奈良県警に呼び出されてん。

レインボーラムネ渋滞……!

それから年2回のはがき抽選に変えたんです。

インターネット販売はしなかったんでしょうか?

一度やったことがあるんですよ。お昼くらいに「商品アップしといて」って従業員に頼んでたんです。で、夜に販売ページ開いてみたら滝のように注文が来てて。急いで「販売とめて!」って電話した

どれくらい注文がきたんでしょうか?

送るのに2ヶ月ぐらいかかる量やったなあ。それで、半日でインターネット販売をやめました(笑)


どうしてそんな人気に……?

最初は松屋町筋商店街のお店に卸してたんやけど、全然売れへんかってん。それから自分とこの工場で販売するようになって、10年くらいは近所の人がぼちぼち買ってくれる程度やったんやけど、あるとき急にお客さんがたくさん来るようになって。誰かがmixiに投稿してくれたのをきっかけに、口コミで広がってな。

投稿したご本人のmixiは見てないんですか?

噂だけ聞いてん。その人がおらんかったら、こんな人気なってなかったと思う。お礼しに行きたいんやけど、名前もどこに住んでるかもわからへん。

「私です!」という方は近大に連絡してもらいましょう!

よろしくお願いします。
絶対に教えないこだわりの製法


美味しいから何度も買いたくなるほど人気になったんですよね。どうやってレインボーラムネが誕生したのでしょうか?

うちは元々、キャラクター商品としてラムネを製造する下請け工場やったけど、いつかオリジナル商品を作りたいと思ってて。そんなときに「ドーハの悲劇」を見て「サッカーボールみたいなラムネを作ろう」って決めたんや。

当時、Jリーグができて盛り上がっていた時代なんですよね。

ワールドカップのアジア地区最終予選で、日本がイラクに負けたとき、みんな一斉にうわーっと泣き出しよって。サッカーの時代が始まったなと。名前も、テレビのサッカー特集でシュートの軌道が虹色で描かれて「レインボーシュート」って言うとってん。それで「レインボーラムネ」って名前をひらめいたんや。

美味しさの秘密も教えてもらえますか?


原材料は砂糖とコーンスターチに、アラビアガム。アラビアガムはゴムの木みたいなのに傷つけてね、マツヤニみたいに取るんですよ。南スーダンが主な産地です。それを粉にして、水で溶いて固めてます。ほんで香料と着色料を入れる。

味も香料で変えてるんですか?

味はピーチ味だけなんです。昔は色に合わせて味も変えてたんやけど、近所の子たちにラムネあげて「味どうや?」聞いたら「おっちゃんみんな同じ味やん」って言いよんねん。一生懸命変えてんのにみんな同じ味や言うから、その子らの意見集めてピーチ味のひとつにしたんです。

これがラムネの粉ですよね。

そうそう、今朝から調合したもの。今日は粉砕と調合をしたから、明日は成形作業です。


ラムネの作り方は会社によって違うんですか?

みんな違う。私が知ってるラムネ工場は関西に6軒あって、みんな仲良いし飲みに行ったりするけど、どうやって作ってるかは絶対教えへん。ここがいいってところをみんな持って作ってるけど、酒は飲んでも絶対秘密にしてる。


これは何の機械ですか?

去年入ったとこで、うちにしかないねん。この部分は見せられん。

企業秘密ですね。


成形されて、乾燥室で乾燥してできあがったものがこれ。

すごい可愛いです。色の割合はバラバラなんですか?

ランダムに出てくるから、赤が多いときもあるし白が多いときもある。せやけど、従業員の子が適当に入れ替えたりしてくれてる。よかったら向こうの部屋で食べてみてください。

いいんですか!? ありがとうございます!

レインボーラムネは一般的なラムネの約2倍の大きさ。

一般的なラムネよりだいぶ大きいですよね。

直径は2cm。普通は8〜12mmやから、かなり大きいな。そんな大きいのは売れへんってみんなに言われたよ。でも、売れへんかってもよかってん。どうしてもサッカーボールを作りたかってん。


ん〜甘くて美味しい。口の中でゆっくり溶けていきますね。

せやから、その大きさが大事やねん。型屋さんにも「そんなん無理や」言われたけど、1年間通い続けてやっと2cmの丸い型を作ってもらえてん。
はがき抽選の当落は、孫の手にかかっていた

工場の一角には、お笑い芸人の松本人志さんや、プロ野球選手の近本光司選手などのサインが並ぶ。

はがきは多いときでどのぐらい送られてきましたか?

一番多いときで14万通きたんです。

ちょっと多すぎて想像つかないです。

8畳の部屋がね、はがきでいっぱいになるんですよ。

そこから何人当たるんですか?

3500人。1年に2回抽選するから、合計7000人やね。

手作業ですよね? めちゃくちゃ大変じゃないですか。

当時2、3歳だった孫に選んでもらってました。「好きなおもちゃ買ったるからはがき選んで」いうたら、楽しそうにやってくれて。大人が選ぶとはがきの文章見て情が入ってしまうけど、孫らは字読まれへんから。

なるほど。本当の意味でのランダムですね。

でも、孫もだんだん大きくなってきて「じいじ、もうええわ」って飽きられてしもた(笑)。4〜5年ぐらいはやってくれたんちゃうかなあ。


当選者にラムネを送るのも大変じゃないですか?

月ごとに発送する人を決めて、「あなたにはいつ頃届きます」というはがきを送り返していました。当たった人は1ヶ月以内に返事が来るけど、外れた人は来ないっていうようにしていて。

それも手作業ってすごい話ですね。

でもね、はがき送ってくれたのにラムネ送られへんいうのが申し訳なくて。はがきを処分するお金もすごいかかるねん。
スカイラインと引き換えに2代目社長へ


近畿大学では商経学部 商学科を卒業されています。イコマ製菓本舗を継ぐつもりで商経学部に入られたんでしょうか?

そんなつもりはなくて、推薦入試を受けてみたら受かったんです。近大入ってからはずっと麻雀……(小声)

4年間麻雀ですか?

校門出て左側に大衆食堂「當里家(あたりや)」っていう店があって。そこでご飯食べたら、2階で麻雀してもタダやねん。その頃は3人打ちはなかったから、4人揃ったら始まってたわ。大学行く手前でみんな消えてしまうねん。

なかなか大学に辿り着けなかったんですね(笑)

今でも連絡を取っているという、大学時代の友人とスキー旅行に行った時の写真。一番右が平口社長。

出席取る授業のときは誰かが走って教えに来てくれてたんよ。みんなうわーっと急いで走っていって席に座るから、先生も「今日は人多いなあ」言うてたね(笑)

そんな時代もあったんですね。今は授業の出欠席を親も確認できるシステムになってるのでサボれないです(笑)。卒業後はすぐにイコマ製菓本舗に入られたんでしょうか?

実はアパレル業界に1年間だけ行ったんですよ。

なぜアパレル業界?

色んな会社を見学しにいってたらね、その会社の課長さんが私をすごい気に入ってくれたんです。せやけど、もらった給料が1週間で消えてしまって。

どういうことですか!?

会社が谷町四丁目にあって、ミナミまで歩いて行けるんです。パッと向こう見たら、ネオンがブワッと光ってこっち見てて。

あはは(笑)。誘惑ですね。

これはサラリーマンに向いてないなと思って、親父に「俺、会社継ぐわ!」と伝えたら「よっしゃ! お前なにほしいねん」って聞かれて。「ケンメリ」言うたら買ってくれてん。

ケンメリ……?

当時大人気だった日産の「スカイライン」※のことや! ケンとメリーが旅するCMが流行して、通称「ケンメリ」。 せやから、車と引き換えにここへ入ってん(笑)
※1972年に登場した日産「スカイライン」4代目 C110型。「ケンとメリー」をキャラクターに起用したCMが社会現象を起こした。

そんなに人気の車だったんですね。
胃がんと心臓病を乗り越え、74歳の今も工場に立つ


ずっと注文が殺到し続けて、お忙しかったんじゃないでしょうか?

今は元気にやらしてもらってるけど、実は2回死にかけたんや。

そうなんですか!?

2008年に胃がんになって、死ぬと思ってんけど手術が成功してな。

体調は徐々に悪くなっていったんですか?

いや、自覚症状が全然なかってん。仕事が忙しくて気づく暇もなく、健康診断を受けたときに初めてわかった。

それで手術されたんですね。

胃は全部取ったよ。まるっきり半年休んだから、もうあかんと思ったし廃業するつもりやったけど、「いつまでも待ってます」って励ましの手紙をいっぱいもらっててな。そんなん、ラムネやめられへんやろ。

でも2回ってことは、それだけじゃなかったんですか?

1年半ぐらい前、次は心臓の手術をしてん。弁がうまく機能してなかったらしいわ。そのときも1日12時間ぐらい働いて、1年で15日から20日ぐらいしか休まへんかったから、忙しくて自覚症状がなかってん。せやけどまた死にかけたから、今は火、水、木の3日だけ働いてます。

74歳の今も現役でラムネを作られているのは、すごい熱量です。

死ねへんかったから働こう言うて、また働き出してん。まだまだやりたいことあるからな。
目指すは「たこ焼き」。真っ直ぐ向き合い続ける


2018年からUHA味覚糖ともコラボされていますよね。

UHA味覚糖と共同開発したのはミニバージョン。あれが本来のラムネのサイズで、うちのオリジナルは邪道やねん。大きいから。

どういった経緯でコラボが実現したんですか?

UHA味覚糖さんからお声がけいただいて。その商談のときに、社長との雑談で「何の本読んでますか?」って聞いてん。そしたら偶然同じ『致知』って雑誌読んでて、この人とやったら腹割って話せると思ったんや。

それでコラボすることを決めたんですか?

あとは熱量に圧倒されたかな。

なるほど。社長の今後の展望はありますか?

まだまだ美味しくしたいねん。私が目指すのはね、たこ焼き。外側がカリッとして、中身がトロッとしてる。せやけど、たこ焼きにするにはまだ合点いかんねん。もうちょっと研究しやんとあかん。

新商品は作らないんですか?

ここだけの話、実は作ってんねん。まだ秘密やけど。それもあってまだ死なれへん。

すごく楽しみです! 大学生へメッセージもお願いします。

若いうちに海外へ行ってみてほしい。日本におって日本を見るのと、海外から日本を見るのとでは全然違うから。

初めて行った国はどこでしたか?

大学4年生で行った台湾。社会人になってからも、ヨーロッパやハワイにも行ったな。ハワイで初めてグミを食べて、美味しさにびっくりしたん覚えてる。あとね、この本も学生のときに読んでほしい。何回も読んでボロボロなんやけど、よかったら3ヶ月だけ貸すよ。

平口社長が何度も読み返した『修身教授録:現代に甦る人間学の要諦』(著・森信三)

いいんですか! 付箋もマーカーもたくさんですね。どんな話ですか?

晩年に備えるための本で、すごいええこと書いてるねん。社会人になってから出会ったけど、学生のときに読んでおきたかった。ほんならあんなに遊んでなかったわ(笑)

あはは(笑)。でも遊んでてよかったこともあるかもしれません。

そうやな。

読む前と読む後でなにが変わりましたか?


人生真っ直ぐ歩いていくようになったよ。あっち行ったりこっち行ったりするの大好きやったけど、寄り道せんと直向きに頑張れるようになった。レインボーラムネもそうや。作れる量は限られてるけど、手の届く範囲で毎日真っ直ぐ向き合ってきたから、それがよかったんかもしれへん。

なかなか手に入らないから、来年またチャレンジしてみようと思いますもんね。大量生産を考えたこともなかったんですか?

それはなかったな。こだわりがあるから、そこは絶対自分の手でやりたいねん。田辺さんも自分の芯みたいなもん、持ってたらいいかもしれへんな。

本当ですね。自分と向き合ってみたいと思います。平口社長、今日はありがとうございました!
対談を終えた田辺さんの感想は?

「レインボーラムネ」が生まれたきっかけや、口コミから人気商品になった経緯、そして平口社長の人生……驚くお話ばかりでした。
平口社長のお話を聞いていると、人との繋がりや日々の小さな出来事をとても大切にされているように感じました。そんな平口社長が作ったラムネだからこそ、1人のSNSの書き込みという小さな出来事からどんどん広がっていったのだろうと思いました。
お話がとても面白く、たくさんのことを学ばせていただきました。この時間は私にとって、とても大切な宝物となりました。おすすめしていただいた本は必ず読もうと思います! ありがとうございました!
取材・文:トミモトリエ
文:オカジマアヤノ
撮影:平野明
編集:人間編集部
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