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2016.04.15

なぜ「工場夜景」に惹かれるのか。その魅力を科学する!

Kindai Picks編集部

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オリジナル記事
コラム
夜景

「工場夜景」にいま注目が集まっている。ひと気のない闇の中、水蒸気が立ち上がる煙突。ゴウゴウと音をたてる巨大建築物。まるでSFのような、非現実的な光景。
そんな景観の魅力を研究し続けているのが、近畿大学社会環境工学科教授の岡田昌彰だ。なぜいま工場夜景に話題が集まるのか。景観工学という学問の観点から、その魅力について語ってもらった。

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【プロフィール】
岡田昌彰(近畿大学 社会環境工学科 教授)
茨城県出身。社会環境工学科教授。土木工学を専攻し、近畿大学大学院では環境系工学専攻を担当。土木史や環境システムのほかさまざまな授業科目を持つかたわら、土木遺産、産業遺産を対象としたヘリテージスタディ、テクノスケープに関する研究などを行う。なかでも景観工学の「工場景観(テクノスケープ)」においては研究界の第一人者として注目を集め、日本国内ほか世界の学会,講演会にて論文発表や講演などを多数行っている。



一度は行きたい工場夜景スポットベスト3!

――岡田先生、今日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。「工場夜景」と言っても初めて耳にする人もいるかもしれません。百聞は一見にしかず。まずは私がおすすめする夜景スポットの写真をご覧ください。


3位 四日市

重要文化財の歴史的護岸や跳ね橋なんかも残っていたり、見どころもバラエティ豊かです。



▼工場夜景 in 四日市 ~煌の世界へようこそ~| 四日市観光協会
http://kanko-yokkaichi.com/night-view/


2位 阪神高速4号湾岸線からみる堺・泉北・高石

高速からの風景なので残念ながら車を止めてみることはできませんが、日本屈指だと思います。



▼夜景動画 堺泉北臨海工業地帯(堺市~高石市)| 大阪 at Night ブログ
http://blog.osakanight.com/article/eid345.html


1位! 川崎

自分の博士論文のフィールドでもあったのですが、規模の大きさ、運河の張り巡り方、景観を見るコースの多さ、そして歴史性。すべてが充実しています!



▼川崎工場夜景 | スタディ・ツーリズムの勧め - 川崎市の産業観光の魅力
http://k-kankou.jp/study_tourism/night/


日本唯一の研究者が語る「工場夜景」の魅力


――きれいですね。工場夜景の魅力とは何でしょうか?

いろいろなものが闇に包まれる夜、わずかな光で浮き上がる工場は、観る者を圧倒するスケール感があります。まさに昼と夜のギャップが見所ですね。さらに工場ならではの金属の光沢や質感。普段の街並みにはない異空間が、多くの人を虜にしているのでしょう。

――夜の工場に行くのは抵抗がある人もいると思うのですが。

まずは各工業都市で工場夜景を観るためのボートやバスでのツアーに参加するのがオススメです。観光要素の強いものですが、全国どこでも気軽に参加できます。「工場夜景 ツアー」などで検索してみると、たくさんのホームページが出てきますよ。


――今回は、2015年度の全国工場夜景サミット開催地でもある尼崎で撮影をしました。尼崎のオススメポイントを教えてください。

今回撮影したいずれの場所もそうですが、とにかく工場との距離が近いのです。スケールの大きな工場を目の前にできる場所はほかの地域にそう多くはありません。撮影したスポットは工場プラントが目前にあり、水蒸気が上がる姿や工場照明の光も美しくて、写真撮影がしやすい場所でもあります。大阪からのアクセスが便利なのも魅力的ですよね。




▼第6回 全国工場夜景サミット in尼崎 | あまらぶ 尼崎観光交流サイト
http://ama-kan.jp/spot/detail.php?id=794


「工場景観」は鉄道ファンから生まれた


――社会環境工学科における先生の研究テーマは「景観工学」。なかでも「工場景観」を授業で取り上げられておられますね。

そうです。景観工学では、街路景観や橋のデザインなど様々なものを教えています。人間が意図的に良い景観を作ろうとしたものもたくさんありますが、作る人が意図したもの以外に、観る人が勝手に「この景観はキレイだ」と言い出して、やがてその価値観が社会に広まっていったものもある。その典型のひとつが「工場景観」なのです。

――美しく見せるつもりはないのに「美しく感じる風景」ということですか。

例えば、富士山なんかもそうです。あれは自然が作りだしたものですが、葛飾北斎などの画家が絵にすることで世間一般にも「美しい」「日本を代表する山」という認識になりました。そういう意味で工場夜景も同じ。工場は人工のものですけど、人間が美しくしようと作ったものではない。あくまで機能を追求して作られたもので、それを管理するために光を照らしただけ。誰かがそれを観て美しいと発見し、それが今やこんなにも大きな価値観になっていったのです。

――なるほど。ただ、工場は昔からありました。しかし「工場夜景」が注目されているのは最近です。なぜ今になって“美しい”と思われるようになったのでしょう?

かつて、戦前や高度経済成長期が来る前の時代には、国が成長する原動力として「工場=素晴らしいもの」と思われていました。でも高度経済成長が終わるころ、公害問題で一気に負のレッテルを張られてしまいました。今まで成長のシンボルだと思っていた工場地帯の景観が人間の世界から疎外されたのです。そして時代が過ぎ、やっとみんなが工場に対して安心感を持つ時代がきて、あらためて工場に注目が集まったのです。

――工場の魅力が再発見されることになった、具体的な契機は何だったのでしょう?

横浜のJR鶴見線に、工場地帯の中だけを運行する一両編成の特殊な形状のレトロな車両があり、鉄道ファンの間では1980年代頃から話題になっていました。戦前から使われていた古い車両で、ゴーゴーと大きな音を立てて走る。これが面白いと鉄道雑誌で取り上げられたのです。同時にその車両が走る沿線の工業地帯の独特な雰囲気も話題になり、それが工場景観に注目が集まるキッカケとなったのです。それ以来、まだまだ面白い工場景観が日本中にあるんじゃないかと話題を呼び、映画や小説などでも取り上げられた。そして最近のSNSやデジカメの普及で、WEB上でも工場夜景にどんどん注目が集まっていきます。





工場夜景は「究極の非日常」


――先生ご自身は、なぜ「工場景観」に魅かれたのでしょう?

私の出身地は茨城県の日立市なのですが、ここは日立製作所や日立鉱山、日立セメント社などの企業城下町でした。町中には日立関連のさまざまな建物があり、また山のてっぺんにある鉱山の煙突も町のシンボルになっていました。そして、私が大学生になってアメリカ留学中、その山のてっぺんにある鉱山の煙突が崩壊した、というニュースを聞いたのです。私にとってその知らせは衝撃的で、一見“たかが煙突”と思われてしまいそうなこの景観に対して、私自身(あるいは日立市民)がどれほど強い思いを持っていたのかを思い知ることとなりました。この時の思いが研究の出発点になっていると思います。

――なるほど。現在、先生と同じくこの「工場夜景」に魅かれる人が続出しています。これらの人々は、どういった部分が“面白い”と感じたのでしょうか。

工場夜景は「究極の非日常」なんです。ひとつひとつの構造物のスケール、我々の想像を超えるものがその地帯には普通に建っています。そこには工場従事員の方以外、あまり人もいない。周囲には民家すらほとんどない。この究極の人工景観には、SFチックな魅力もある。

――確かに、夜の神秘的な静けさの中、煌々と光っている風景は街中では絶対に観ることができないものですよね。

特に臨海工業地帯などでは、工場から出る炎が水面に映し出される風景は美しいですね。あと、工場の音なんかも面白い。水蒸気が沸いていたり、フレアスタックといって、いらなくなったガスを燃やすために煙突からゴーっと火が燃えだしたりする音は、風景にさらなる“非日常”を感じさせます。





「工場夜景」から始まる地域愛と街づくり


――今は北九州を中心に近代文明の産業遺産が世界遺産に認定されるほど、全国的にこの分野の知名度も上がっていますし、まだまだ人気は高まりそうですね。

工場景観は、産業遺産、産業観光、そして工場見学などにも繋がります。同じ文脈を持った概念だと思いますね。

――「工場夜景」は地域社会にも貢献する、ということですね。

街づくりの原動力は地域愛。わが町が好きだからこそ、もっと良い街にしたいと思える。その入口として、景観というのはひとつの意義を持つと思いますね。工業地帯そのものに興味や関心を持つことは、わが国、我が町を好きになるひとつのキッカケなのです。自分の街には何もないと思っていても、実は面白い歴史やモノがあるのだということで、街の人が誇りを持って盛り上げていけるのではないかと期待しています。

――今や「工場夜景」は全国サミットが開催されるほど注目が集まる景観ジャンルのひとつになりましたね。

最初は、川崎、四日市、室蘭、北九州など工業都市の自治体,観光協会などの関係団体が、観光会社とタイアップして工場夜景ツアーを始めたんです。それが成功したことから、皆で情報共有をしようということになり、2011年から「全国工場夜景サミット」が始まったんですよ。その後、周南市、尼崎市、富士市など、加盟する都市もどんどん増えていますね。

――先生のほかに研究者の方はいらっしゃるのでしょうか。

工場景観を素材にしてすばらしい作品を世に出されているカメラマンやクリエイターの方は多数おられます。しかし、日本国内で工場景観を深く研究しようというプロの研究者は残念ながらなかなか出て来てくれません。世界にはこの分野に関心をもつ研究者は結構いるのですが。日本でも、特に若手の研究者がどんどん出てきてほしいですね。分野を問わず、まずは「工場景観」を楽しむことができる仲間がこれからもどんどん増えていけばいいと思っています。


▼全国工場夜景都市|四日市観光協会

▼夜景写真家がおすすめする日本全国の「工場夜景」10選|All About

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