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死因究明のカリスマ!2万人の遺体を解剖した【監察医】巽信二先生に聞く法医学の世界

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Kindai Picks編集部

2019.03.20

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オリジナル記事
社領エミ
医療

「僕は亡くなった人の砦であり、最終責任者なんや」。そう話すのは近畿大学医学部法医学教室 主任教授であり監察医の権威・巽 信二さん。監察医の仕事は、もの言わぬ遺体から解剖を通じて死因を考察し、事件解決のヒントを見つけたり、遺族の心をときほぐしたりすること。石原さとみ主演のドラマ『アンナチュラル』が話題になりましたが、まだまだ知られていない「法医学」の分野を皆さんにも知ってもらいたい。過去2万人以上ものご遺体を解剖してきたなかで、巽先生が大切にする"仕事へのポリシー"をお聞きしました!



近畿大学 大阪狭山キャンパスの前から、こんにちはー! ライターの社領エミです!

みなさんご存知でしょうか。近畿大学の医学部に、
ものすごい数の「人間の解剖」をしている先生がいるってことを……!



ギャー! 怖い!

もちろん、趣味で解剖をしているわけではありません。
聞くところによると、自殺サイト連続殺人事件(2005年)、青酸化合物連続不審死事件(2007〜13年)など、世間を震撼させた数々の犯罪の捜査にも協力されているそう、なのですが。

その先生は、一週間に何人もの人間を解剖しているらしく、
解剖の総数は、およそ2万人を超えているんだとか……。



に、2万人〜〜〜!?

2万人といえば、さいたまスーパーアリーナのキャパと同じだし、岐阜県美濃市の人口とも同じ……!!

そんな人数を解剖してるって、一体どんな人なのよ〜!?


監察医の権威、巽先生にお話を聞く!


というわけで!
解剖のスペシャリストである、巽(たつみ)先生に会いにきました〜!



巽 信二(たつみ しんじ)
近畿大学医学部法医学教室 主任教授、医師(法医学者・監察医)
1954年大阪府生まれ。80年に近畿大学医学部を卒業後、同大講師、助教授を経て、2007年から現職。1985年より大阪府監察医事務所監察医。大阪府・大阪市被虐待児鑑定医も務める。

本日も解剖が2件入っているという巽先生。「さっきも解剖してたんや」と、お忙しい合間を縫って取材にご協力下さいました! どんな方かと思いきや、関西弁のかなりフレンドリーなお方です!


はじめまして、巽です。今日はよろしく!




よろしくお願いします! わー、人間を解剖したことある人に会ったの、はじめてかも……!


巽先生が医学部で教えていらっしゃるのは法医学法律的に重要な事実関係の鑑定・解釈などをする医学のこと。例えば聞いたことがあるのでいうと、血液型や指紋による個人識別、親子鑑定から、殺人事件の場合は死因・死後時間の推定などなど……つまり、死因の究明に必要なことを色々学べる学問なんです


ちなみに先生、これまでに2万人も解剖したって本当ですか?




本当です。正しくいうと、司法解剖だけで約3700件、検案解剖の総数が2万件以上やね。主に大阪府内のご遺体を担当してます。


※司法解剖:犯罪性のある遺体、またはその疑いのある遺体の死因などを究明するために行われる解剖のこと。 ※検案:医師が検視(遺体の取り調べ)すること。


ど、どひぇ〜〜〜!





こ、この手が2万件もの解剖を……!


先生が受け持っている近大医学部法医学教室の管轄は、この大阪府マップの下半分、黄色い部分全部だそう。広〜っ! ちなみに巽先生自身は、大阪府警と協力し、大阪府下全域で活動されているんだとか。


いやしかし、2万件ってものすごい数ですよね!? 犯罪に関する解剖が約3700件とのことですが、そのほかの16300件は何のために解剖を……?


犯罪が絡んでそうなこと以外にも、僕の仕事はあらゆる場所で必要になるよ。正確に言うと、僕は解剖する先生じゃなくて、仕事の過程で解剖もやる「監察医」です。監察医の仕事は、「遺体の死因を明らかにすること」やから。


遺体の死因を明らかにすること?




監察医の仕事その① 犯罪の見逃しを防止する!





例えば……介護施設で亡くなった高齢のおじいちゃんのご遺体が、僕のところに来たんやけど。



えっ! 介護施設で亡くなった方も解剖の対象に?




いや、解剖は必ずしも必須じゃないんよ。監察医の目的は「死因を明らかにすること」やから、変死体みたいな不審点のあるご遺体だけじゃなくて、警察に「事件性は無いけれど死因を調べたい」と判断された、解剖の必要性がないご遺体も来るんです。





人が亡くなった時、死亡直後にお医者さんが診た場合や、持病関連の死亡なら、お医者さんの「診断」で死因が確定する。


ふむふむ。



でもそれ以外の、死後時間が経っているとか、突然死なんかの場合は、ご遺体を調べて死因を確定させなあかん。なので、警察から僕たち監察医のところにご遺体がまわってくることがあるのよ。

※2019年度1月現在、監察医制度は東京23区・大阪市・名古屋市・横浜市・神戸市の5都市でのみ導入されています。それ以外の地域では、大学の法医学教室が制度に準じておこなっている。


知らなかった〜……! 人間みんな死ぬけど、死ぬときの仕組みは知らないもんだなぁ。






で、その介護施設のおじいちゃんも、警察から「老衰だと思うので、死因を確定させてくれ」ってご遺体がまわってきた。しかし……添えられた死亡当時の資料を見たら、どうもおかしい。


おかしい、とは……?




介護施設の証言では、「2、3日前からご飯を食べなくなったので、寿命が近い気がしていた」「午前0時半には肩で息をしていたが、午前1時半には息が止まっていた。だから救急隊を呼んだ」ってことやった。でも、どうも矛盾があったんよ。


矛盾?




救急隊の記録には、「救急隊は午前1時40分に現場到着、ご遺体は病院に送還しなかった」と書いてある。救急隊が送還しないってことは、「顎が硬直して口が開かなく気管内挿管できなかった、完全に亡くなってるってわかったから」ってことやねん。

※硬直…死亡すると乳酸の放出により関節を挟む筋肉が硬くなること。顎から始まる。


ほうほう。




でも顎の硬直って、普通は亡くなってから1時間くらいあとにならんと始まらへんのよ。医者の立場から考えて、午前0時半に肩で息してた人の顎が、30分で硬直してるわけないやろ、と。なんか嘘ついてるな、って思って。


こ、これは、事件のにおい……!




そこで解剖の出番や。「やっぱり気になるところがあるから解剖させて!」と警察に頼んで、おじいちゃんを解剖した。すると……ビンゴや。腸管が破裂してたんよ。死因は老衰じゃなくて、腸管破裂によってご飯・水が喉を通らなかったからやった。


えーっ! 腸管破裂!?




血の出方を見るに、亡くなる3日以上前にできた傷で、肘や膝で圧をかけられて破裂してる感じやった。要するに、介護士にめちゃくちゃやられたんじゃないか、ってことや。解剖をきっかけに、あっちゅうまに事件が発覚したってわけ。


す、すごい~~~! 名◯偵コ◯ンみたい!




そういう感じで、犯罪の見逃しを防止するための仕事もするね。




監察医の仕事その② 変死体の死因を究明する



ほかにも監察医の仕事はいろいろあるよ。さっきも言ったように、僕の仕事は「遺体の死因を明らかにすること」やから、時には警察の捜査一課も相談しにくる。


へえー! 捜査協力みたいなことですか?




そうやね。例えばこの間あったのでいうと、フォークリフトの中で人が死んでたってことがあった。その時、フロントガラスが割れてご遺体の周りに飛び散ってたんやけど、ご遺体がフォークリフトにぶつかったのか、はたまた轢かれたのか……警察が調べてみても、死因が全然わからへん。


ふんふん……。




そういう時も僕の出番。僕は、何千枚とある現場の資料や状況写真を見て、ガラスの飛び散り方やご遺体の状態を過去の経験と照らし合わせ、死因究明のお手伝いをする。




ご遺体には、下半身を中心に傷があって、なぜか両手が汚れてた。で、ガラスの破片からみても、どうもご遺体はフォークリフトに目がけて上から飛び降りてきた感じがする……。


なんか本当にコ◯ンみたいになってきたな……。




そしたらなんと! 事件現場のすぐ近くにちょうど電柱があるわけ! 「これは怪しいな」と思って、警察に「電柱と手を調べてきて!」とお願いした。


す、すると……?




そしたらまた、ビンゴや! 手の汚れは、ものが擦れたときにできる傷跡……擦過痕(さっかこん)で、ご遺体は亡くなる前に電柱に登ったってことがわかった。つまり、電柱の上からフォークリフトに向かって飛び降りたんや。


え〜〜〜! ほんまに先生、探偵みたいですね! 写真だけでそんなことが解るんですか!?



まぁいろいろ経験あるからね。僕、警察向けに、死因を解明するための本も書いてるんやで。



こちらが、巽先生が執筆された『法医検視読本』。


中はこんな感じ。このように、遺体の損傷から見る凶器の見分け方や、血痕がどこからどの角度で飛んできたかを見分ける方法など、変死体の読み解き方についてガッツリ網羅されております!この本、司法検察員(一般の警察官、海上保安庁、検事)の方以外は買えないにも関わらず、なんと1万冊も売れたプロ御用達の本なんだとか……!


おお……! 解剖だけじゃなく、検証のお手伝いまでされるとは……。




まぁ、そこまで深入りすんのは僕くらいやと思うけどね。本来の監察医の仕事は、あくまで「運ばれてきた遺体の死因を究明すること」やから。


すごいなぁ。でも、そのご遺体はなんで飛び降りたんでしょう?




まずは、覚醒剤の使用を疑うね。




な、なるほど〜!ハイだったってことですか?




うん。しかし、実際にご遺体を調べたところ、ご遺体からは覚醒剤の陽性反応は出なかった。なんで? と思って犯罪歴を調べたら、覚醒剤の使用で1ヶ月前に捕まってた。つまり、フラッシュバックやったんや。

※フラッシュバック(再燃現象):薬物乱用をやめ、普通の生活に戻ったようでも、飲酒やストレス等の何らかの刺激によって再び幻覚・妄想などの精神異常が再燃すること。


フラッシュバックで気が大きくなって、「俺は飛べるんや!」ってほんまに飛んでもうたってわけ。





いやぁ〜、かなり興味深いなぁ……! 状況証拠の見方と医療的な見方を掛け合わせることで、物言わぬご遺体からそこまで読めちゃうのか! なんか監察医の仕事って、謎解きみたいですねぇ。


そう、 謎解きに似てる。「あれ?おかしいな。この場面でこんなことするか?」「この血の飛び散り方はおかしいぞ」そういう小さなパズルのピースをはめていって、ひとつも矛盾がないところまで解明する。それが僕なりの仕事やね。



監察医の仕事その③ 遺族の気持ちに整理をつける



あと最後に、僕は「遺族の気持ちに整理をつける」って役割の仕事もしてます。



遺族の気持ちに整理をつける?




例えば……うちで解剖するご遺体は年間約140件。さっき紹介したような変死体も多いけど、1割は1歳未満の乳児なんよ。で、そのうちの6割は、窒息死か「乳幼児突然死症候群」で亡くなっている。

※乳幼児突然死症候群:何の予兆もないままに、主に1歳未満の健康にみえた乳児に、突然死をもたらす疾患のこと。


そっか……大人のご遺体ばかり想像していたけど、赤ちゃんが亡くなることがあるのか。



そう。お子さんが急に亡くなったなんて、親御さんは気持ちの整理つかへんやんか。だから、うちで乳幼児が解剖になった場合は、ご遺族に「必要でしたら死因の鑑定結果の説明も可能です」ってお伝えするようにしてて。


うぅ、親御さんの気持ちを思うとめちゃくちゃつらい……。



そしたらやっぱり、連絡あるんよね。だいたいのご夫婦が「また子どもを作りたいと思っているが、大丈夫だろうか?」と不安に思われてる。だから僕は、死因を噛み砕いて教え、大丈夫ですよと言ったうえで、具体的な対策を教えてあげるってことをしてる。


えぇ〜! そんなことまで! 優しすぎる……!






この間、ゲップができなかったことで乳児が窒息死したことがあったんやけど、僕はお母さんに言ったわけ。「この子は、標高6000mのアルプスを急に登ったみたいなもんで、先に意識が落ちてスッと亡くなってる。だから、全然苦しんでないよ」って。


せ、先生〜〜〜!




もう、こっちがもらい泣きするくらいお母さん大泣きしはってね。でもその瞬間、どっかしら救われたと思うんよ。そうやって、死因究明を通して遺族のしこりをとってあげるのも大事な仕事やと思ってる。


もう泣きそうです……自分が親の立場だとすると、先生がほんまに神様に見えると思います。しかし解剖する方って、ご家族のメンタルケアまでされてるんですね!


いや、これも僕以外の監察医はあんまりやってへんと思うけどね(笑)。まぁ、そんなふうに、犯罪の見逃し防止のためとか、死因を明らかにするためとか、遺族の気持ちの整理とか……。僕の仕事は、解剖だけじゃなく、色んなところで必要ってわけ。



巽先生はなぜ監察医になったの?



いやぁ、はじめて聞くことばかりで勉強になりました! これから、サスペンス系の漫画や映画の見方がガラッと変わりそう〜!



そう言ってもらえてよかったです。面白い仕事でしょう。




すごい面白いです。しかし先生のお話を聞くと、監察医って幅広い知識が必要ですね。老若男女関わらず、いろんな病気の症状がわからなければならないし、凶器の特徴やガラスの飛び散り方や、現場の読み解き方まで網羅する必要がある……。先生はなぜ、そんな難しすぎる監察医という道に進んだんでしょう?


僕、もともとひとつのことに落ち着いていられない性格なのよね。若い頃から、必要とあらば外科・内科と走り回ってて。



色んなことに興味を持たれてるんですね!




そうそう。だからこそ、幅広い知識が求められる監察医の仕事を楽しめるんじゃないかなぁ。今も監察医のかたわら、内科の先生として患者さんを診たり、大阪マラソンのドクターもやるし、一時期は日本ボクシングのコミッションドクターも兼業してた(笑)。とにかく、落ち着いてられへんのよね。


落ち着いていられない性格が、めちゃめちゃいい方向に作用してるんですね。あと、先生って観察眼も並外れてるなと思ったんです。警察が見落とした手がかりを目敏く発見されてますよね!


まぁ、ご遺体が相手やと、「緊急性がない」という意味ではじっくり考えられるよね。


なるほど。




あと、さっきも言ったように、この仕事は謎解きに似てるから。何千枚もの状況証拠の写真や、ご遺体の体勢や傷の状態を見て、死因を紐解いていく……。





そのちょっとした綻びを見つけて、完璧な解をみつけだすのが楽しいんよ〜! 矛盾や気持ち悪さがひとつもない状態を目指す。時にはその過程で、「この人は几帳面だな」とか、「こういう思いでこういう行動にでたのかな」とか、亡くなった方の人間性にまで触れられたりもするしね。すごくやりがいのある仕事やで!


めちゃめちゃいい笑顔だな〜! お仕事をすごく楽しんでらっしゃるのが伝わってくる!



法医学者は日本全体でわずか100名……!?法医学の面白さを若い世代に伝えたい!



先生は、今後もずっと監察医の仕事をされるんですか?




まぁね。でもまぁ……こんだけ言ってるけど、僕のメインは近大の先生やからね。法医学教室の主任教授やから!



そ、そっかー! めちゃめちゃ実戦経験があるけど、大学の先生だった……! じゃあ、普段は大勢の学生の前で、今日お聞きしたような話なんかを教えているですか?


せやね、ご遺体を学生と一緒に解剖するとか。でも、いま法医学を志望する子ってほんまに少ないんよ。



少ないんですか! こんなに奥深いのに!




法医学の面白さが今後、少しでも若い世代に伝わっていけば、ひょっとしたら自分の考えや活動が受け継がれていくんちゃうかって考えてるんやけどなぁ……。


そうですね。先生の今日のお話、すっごく勉強になったので、受け継がれないと勿体なさすぎます。



法医学ってほんまに難しいんよ。正直、教科書の内容だけじゃ全然足りひん。極めるほどカバーする領域が広がっていくし、思いもよらんところに答えがあるしで、何年やっても分からんことだらけ……でもだからこそ、やりがいがあって面白いんよね!知識としつこさと経験がものを言う世界だから、ぜひアツい奴に足を踏み入れてほしいと思う。


今日、先生は何度か「ほかの監察医はここまでやらないかも」とおっしゃってましたよね。先生が誰よりもアツく、最後までこだわることができる理由は何なんでしょうか?





監察医はね、初診だけで再診もない、一発勝負の診察なんや。次の日には火葬されてるわけやから、僕が砦であり、最終責任者。だから常に、「これで大丈夫か?」という気持ちは忘れないようにしてる。せっかく解剖させて貰ってるんだから、やっぱり結果は残さんとね!それに僕は、死因究明をおろそかにせず、フィードバックまでキチンとやることが、医療に対する国民の信頼にもつながると思ってるよ。


自分が遺族だとしても、死ぬ側だとしたも、そこまで診てもらえるのって本当にありがたいって感じます……! 今日は貴重なお話、ありがとうございました!



死ぬときは巽先生に診てもらいた〜い!


というわけで、近畿大学の医学部主任教授、巽先生にお話をお伺いしました!

私たちは誰しも、死にます! でも、もし思いもよらない方法で死んだら? 後悔の残る死に方だったら……? そう考えると、死んだ後も最後までガッツリ診てくれる巽先生の存在って、とてもありがたいですよね。もし自分が死んだとき解剖の必要があるなら、できれば巽先生に診てもらいたい……! 大阪に引っ越せばいいのかな〜!?(笑)

というわけでKindai Picksをご覧の皆さん、興味を持った方はぜひ一度法医学に触れてみてはどうでしょう? きっと、他ではできない経験ができると思います。


はい! 社領エミでした。


(終わり)


ライタープロフィール
社領エミ
アホなフリーライターの社領エミです!!取っつきにくいことをわかりやすく噛み砕いたり、みんなが気になることをインタビューしたり、ジモコロ、マイネ王等で書いてます。本名です。
@emicha4649


写真:かまたま/おかん
企画・編集:人間編集部



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